【限度がある】給与の差し押さえは違法?高松高裁判決を当事者目線でAI解説【2026】


給料日に振り込まれたお金が、口座から消える。そんな差し押さえを「違法」だと判断した判決が出たんだ。

2026年7月30日、高松高裁。住民税の滞納を理由にした口座の差し押さえをめぐる裁判だよ。判決は、徴収を担当した徳島県市町村総合事務組合を「悪意の受益者」に当たると認定した。そのうえで、約8万3千円の支払いを命じたと伝えられている(出典:徳島新聞)。

一行でいうとこうなる。振り込まれた後の口座でも、生活に必要な部分まで持っていくのは行き過ぎだと判断された、ということ。

先に、いちばん大事なことを書いておくね。給与の差し押さえには、法律が定めた限度があります。「全部持っていかれても文句は言えない」という話じゃないんだ。


🔸わかっている事実

報道で確認できている範囲だと、こんな内容だよ。

  • 判決の日は2026年7月30日。裁判所は高松高裁(出典:徳島新聞)。
  • 男性側の請求は、給料と慰謝料など合わせて約77万円。
  • 認められたのは約8万3千円。請求全体からすれば一部にとどまる。
  • 一審の徳島地裁も2026年2月2日、差し押さえを不当と認めて約7万6千円の支払いを命じている。慰謝料は認めていない。
  • 争われたのは給与そのものではなく、銀行口座に振り込まれた「後」の預金。

👤「そもそも、滞納した方が悪いんじゃないの?」

そう思う人はいると思う。その感覚は、責められるものじゃないよ。税金は納めなきゃいけない。ただ、この判決はどちらが悪い人かを決めた話ではないんだ。納める義務がある。そのうえで、取り立てにも守るべき限度がある。話は二階建てになっている。

👤「うちも同じことをされたけど、うちの場合も違法なの?」

それは、この記事では決められない。ここは大事なところだから、後半でちゃんと触れるね。

長い話になるから、先に地図を渡しておく。この記事で答えるのは4つだよ。

① この判決で何が変わるのか。
② 給料はどこまで守られるのか。
③ 滞納してしまったらどうするか。
④ 僕がこのニュースを他人事として読めない理由。

それじゃあ、本題に入るね。


🔸「悪意の受益者」って?

まず、ニュースに出てきた「悪意の受益者」から。ここでつまずく人が多いと思う。

法律でいう「悪意」は、日常語の「意地が悪い」ではありません。ある事情を「知っていた」ことを指す言葉なんだ。知らなかった場合は「善意」という。人柄の話ではなく、知っていたかどうかという事実の話だね。

だから今回の認定も、担当者の人格を評価した言葉ではないよ。判決が使った法律用語として受け取ってほしい。

先に一つだけ、言っておくね。こういう条文や判例の話を、AIに聞いて確かめるのはおすすめしない。条文の特定と解釈は、AIがいちばん間違えるところだから。理由は後半で、僕の失敗として書くよ。


🔸給料の差し押さえ、限度は?

ここが、この記事の背骨。給料は法律上、全部を差し押さえることができないんだ。

定めているのは国税徴収法の第76条(e-Gov 国税徴収法)。考え方の骨格は、国税庁の法令解釈通達「第76条関係 給与の差押禁止」に示されている。

順番はこうなっているよ。

  1. まず給料等から、所得税・住民税・社会保険料の各相当額を差し引く。
  2. その残りのうち、生活保護の生活扶助基準をもとに政令で定められた金額(最低生活費に当たる部分)が守られる。
  3. さらに残額の20%相当額も加えた金額までは、差し押さえてはいけない。

金額は扶養家族の人数などで変わる。だから大事なのは金額そのものじゃない。生活を維持するために必要な部分は、法律が最初から守っているという構造のほうなんだ。

同じ通達には、給料が支払われた後の日割りの考え方も書いてある。計算例は、この守られる金額の合計が150,000円で、30日のうち残りが20日というケース。このとき「150,000円×20/30=100,000円」になる。

ここは読み間違えやすいところ。150,000円は月給ではなく、差押えが禁止される金額の合計だよ。

守られているのは、税金の場面だけじゃない。民事執行法の第152条にも差押禁止債権の定めがあるし、児童手当法の第15条も受給権の保護を定めている。

この線は、あなたの給料にも同じように引かれている。契約社員でも、パートでも、線の考え方は変わらないよ。

図1:差し押さえてよい範囲と、いけない範囲の構造図


🔸20年で何が変わった?

じゃあ、なぜこういう裁判が起きるんだろう。理由は、給料が「振り込まれた後」に法律上の姿を変えてしまうからなんだ。

出発点は、最高裁判所第三小法廷の平成10年2月10日判決。国民年金と労災保険金が振り込まれた預金をめぐる事件で、滞納処分の事案ではない。差押えが禁止された給付でも、口座に振り込まれれば預金債権に変わる。原則としてその属性は引き継がない。最高裁はそう述べた原審の判断を是認した、と理解されている。

つまり形の上では、「給料」ではなく「預金」になる。ここに、生活を守る仕組みの穴ができるわけ。

でも裁判所は、形式だけで割り切ってきたわけじゃないんだ。専門団体の解説資料によれば、児童手当が振り込まれた9分後の差し押さえを違法とした判決がある。広島高裁松江支部の平成25年11月27日判決で、不当利得での返還によって救済したとされている。

より踏み込んだのが、大阪高裁の令和元年9月26日判決。大阪社会保障推進協議会の滞納処分対策委員会の解説資料に、判決文が引用されている。

「給与等が受給者の預金口座に振り込まれて預金債権になった場合であっても、同法(国税徴収法)76条1項及び2項が給与生活者等の最低生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差押えを禁止した趣旨に鑑みると、具体的事情の下で、当該預金債権に対する差押処分が、実質的に差押えを禁止された給与等の債権を差し押さえたものと同視することができる場合には、上記差押禁止の趣旨に反するものとして違法となると解するのが相当である。」

つまり、こういうこと。形の上では預金でも、実質的に給料を差し押さえたのと同じと言える場合には、違法になりえる。同資料によれば、この事件は振込から2日後の差し押さえで、他の入出金もあった。それでも違法と判断されているんだ。

行政の文書にも、同じ発想があるよ。さっきの通達は、振込で生じた預金債権は第76条第2項の「給料等に基き支払を受けた金銭」に含まれないとしている。そのうえで、生活の維持を困難にするおそれがある金額は、差押えを猶予・解除できるとしている。

冒頭の判決も、この流れの中にある。ただし判断は、その事件の具体的な事情のもとでのもの。大阪高裁の判示にも「具体的事情の下で」という限定が入っているよね。

だから、「これからは口座の差し押さえがすべて違法になる」という意味ではないんだ。差し押さえは法律にもとづく手続きで、滞納が続けば行われることもある。放置は、いちばん不利な選択だと思う。

図2:形式から実質へ——20年の判例の流れ


🔸滞納したらどうする?

差し押さえの手前には、相談できる制度があるよ。ここを知らないまま、督促状を引き出しにしまってしまう人がいる。昔の僕も、その一人だった。

国税については、国税庁が納税の猶予制度を案内している。「国税を一時に納付できない方のために 猶予制度があります」(PDF)が公開されているよ。納税の猶予制度に関するFAQ(PDF)もある。

住民税のような地方税にも、同じ考え方の制度がある。東京都主税局は「納税が困難な方に対する猶予制度について」で、徴収の猶予と換価の猶予を案内している。同ページによれば、猶予期間は最長1年で、延長が認められる場合もあるとのこと。運用は自治体で違うから、住んでいる地域の窓口で確かめてね。

行政の制度を自分で調べる手順は、給付金や補助金の調べ方をまとめた記事にまとめてある。支払いの時期を前もって整える考え方は、予定納税と資金繰りの記事で扱っているよ。

相談そのものが不安なときは、法テラス(日本司法支援センター)もある。収入などの条件を満たせば、無料の法律相談や弁護士費用の立替えを使えることがあるんだ。

👤「相談したら、怒られるんじゃないの?」

その気持ちは、僕にはよく分かる。届いた郵便を、束の下に隠していた側の人間だからね。ただ、窓口が知りたいのは責める材料じゃない。いくらなら払えるのか、という現実のほうなんだ。

今月と来月にいくら払えるか。その数字だけ先に決めておくと、話が早く進むよ。

その数字を整理するのに、AIを使う人もいると思う。それ自体は悪いことじゃないよ。

ただ、氏名や住所、勤務先、口座みたいな機微な情報は入れないでね。個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表している。

経済産業省と総務省のAI事業者ガイドラインもあるよ。事業者向けの文書ではあるけれど、AIの誤りを前提とした扱い方の参考になる。

渡す情報の範囲は、自分の側で区切る。これは、後半の僕の話にもつながるところなんだ。

病気で働けなかった。収入が急に減った。これは誰にでも起こることだと思う。滞納は、だらしなさの証明じゃないんだ。


🔸僕自身の話をさせて

ここからは、僕自身の話。判決の解説とは切り離して読んでね。

僕は、税金の滞納をめぐる行政訴訟を、当事者として闘った経験がある。代理人の弁護士に依頼して、書面のやりとりを重ねた。

いちばん苦しんだのは、陳述書だった。自分が受けた損害を、自分の言葉で裁判官に伝える書面のこと。

事実は、全部僕の頭の中にあるんだ。それなのに、書き出すと届かない。つらかったという言葉を重ねるほど、文章は薄くなっていった。

そこで僕は、AIを壁打ちの相手にした。相談したのは、二点だけ。どのような文言を使えば伝わるのか。どのような順番で話せば、読む人の頭に入るのか。

書いてもらったんじゃない。自分の下書きを見せて、「読みにくいのはどこか」「順番を入れ替えるならどこか」を返してもらう使い方だね。頼み方そのものに不安がある人は、プロンプトの書き方の入門記事から始めてみて。

書いたのは自分。ただ、一人で画面に向かっていたら、あの並びにはたどり着けなかったと思う。

条文を間違えられた夜

危なかったこともあるよ。はっきり背筋が寒くなった瞬間だった。

法律の解釈と、「法律第何条」という条文番号の部分で、AIの出力に間違いがあったんだ。しかも、文章としては整っている。堂々としていて、疑う気持ちが起きにくい形で出てくる。

当時の画面の記録は残っていないから、やりとりの流れを再現して書くね。

僕は、ある論点について「これはどの条文の話になりますか」と尋ねた。AIはすぐに、ある条文の番号と、それらしい解釈を返してきた。説明は筋が通っているように読める。僕は一度、なるほどと思ってしまった。

念のため、原典に当たった。開いてみると、その番号の条文は、返ってきた説明とは違うことを定めていたんだ。画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。

もしあのまま書面に載せていたら、と思うと今でも寒くなる。存在しない根拠や、内容の違う解釈を裁判の書面に書けば、主張全体の信用が落ちる。AIは、もっともらしい嘘をつくことがあります。僕はこれを、自分の手続きの中で知った。

それ以来、AIが出した一文は、必ず原典を開いてから使うようにしている。手間はかかる。でも、省いてはいけない作業だった。AIの誤りの見抜き方は、AIのもっともらしい嘘を見抜く記事で詳しくまとめているよ。

弁護士も、同じ経験をしていた

この誤りのことを、代理人の弁護士に伝えた。返ってきたのは、意外な答えだった。

弁護士自身にも、同じような経験があるという。そして今はこういう工夫をしている、と教えてくれた。NotebookLMなどを使って、関連する文書を読み込ませる。そのうえで、その範囲内で文章を生成してもらうやり方だね(サービス名は執筆時点のもの)。

AIが一般に持っている知識で答えさせない。こちらが渡した資料の中だけで考えさせる。そうすれば、事案と関係のない一般論が紛れ込みにくくなるよね。

専門家も、同じところで危ない目に遭っていた。その事実に、僕は少し救われたよ。使わないのでもなく、丸ごと信じるのでもない。渡す情報の範囲を、自分の側で区切る。それが現実的な答えだった。

僕が使っている「壁打ちの型」

僕が実際にやっていた「文言と順番の壁打ち」を、そのまま使える型にしておくね。法律の場面に限らず、文章が伝わらないときに使えるよ。

【役割】あなたは、文章の読みやすさだけを見る編集者です。
【禁止】法律の条文名・条文番号・判例名は出さないでください。
    僕が書いていない事実を足さないでください。
【前提】これから貼るのは、僕が自分で書いた下書きです。
    固有名詞・金額・日付は伏せてあります。
【お願い】
1. 読み手が最初に知りたいことは何ですか。その順番に並べ替える案を出してください。
2. 二通りの意味に取れる文はどれですか。
3. 同じことを繰り返している箇所はどこですか。
4. 事実と、僕の気持ちが混ざっている文はどれですか。

大事なのは【禁止】の行だよ。AIがいちばん間違えたのは、条文と解釈だった。だから最初から、その領域には手を出させない。弁護士に教わった「渡した資料の範囲内で答えさせる」の簡易版でもあるんだ。

言葉だけだと伝わりにくいから、架空の例で見せるね。この例は記事のために作ったもので、僕が実際にやりとりした内容ではありません。法律とは関係のない題材で、引っ越しのときに家財が壊れた件を業者へ伝える文章にするよ。

整える前(起きた順に並べただけ)

この前、引っ越しをしました。当日は朝から作業が始まりました。夕方に新居へ着きました。荷ほどきをしたのは翌日です。そのときに食器棚の扉が割れているのに気づきました。とても困っています。

整えた後(文言と順番を変えた)

運んでいただいた食器棚の扉が、割れていました。
気づいたのは、荷ほどきをした翌日です。
当日は朝から作業が始まり、夕方に新居へ到着しました。
割れているのは扉のガラス部分です。写真を添えます。
ご確認のうえ、対応をご相談させてください。

変えたのは二つだけ。相手が最初に知りたいこと(何が壊れたか)を先頭に出した。そして、事実と気持ちを分けた。

「とても困っています」を削ったのは、気持ちを隠すためじゃないよ。事実が整って並んだほうが、困っている度合いはかえって伝わるから。

陳述書でやっていたのも、これと同じ作業だった。窓口で自分の事情を説明するときも、たぶん同じだと思う。

ここまでが、僕の話。最後に、あなたのケースの話をするね。


🔸うちも違法なの?

ここまで読んで、「うちのケースも違法でしょ」と思った人がいるかもしれないね。その気持ちは自然だと思う。

でも、それを判断できるのは裁判所であり、事情を聞いた弁護士だよ。弁護士法は、報酬を得て法律事務を扱うことを弁護士等に限っている。AIは代理人にも鑑定人にもなれない。この記事も、あなたの事案の答えは持っていないんだ。

法律の場面でAIをどこまで使うかは、交通事故の示談と過失割合をAIで予習する記事でも、別の角度から扱っているよ。

それでも、ここまで読んだ意味はあると思う。「限度がある」と知っている人は、相談の窓口までたどり着ける。知らないままだと、引き出しの中で督促状が増えていくだけだからね。


🔸まとめ:4つの答え

最初に渡した地図の順番で、答えをまとめるね。

① この判決で何が変わるのか

振込後の口座でも、実質的に給料を差し押さえたのと同じと言える場合には違法になりえる。その流れに、また一つ判断が加わった。ただし、すべての差し押さえが違法になる話でもないよ。

② 給料はどこまで守られるのか

所得税・住民税・社会保険料を引いた残りのうち、最低生活費に当たる部分と、残額の20%相当額は守られる。金額は家族構成などで変わる。確かめる先は、国税徴収法の第76条と国税庁の通達。

③ 滞納してしまったらどうするか

猶予や分納の相談窓口が、差し押さえの手前にある。今月と来月にいくら払えるか、その数字だけ決めて窓口へ。不安なら法テラスも使えるよ。

④ 僕がこのニュースを他人事として読めない理由

僕自身が当事者として手続きを経験して、AIに助けられて、AIに間違えられたから。だからこの記事では、AIに頼んでいい範囲と、絶対に頼まない範囲を分けて書いた。

明日できることは、たぶん一つだけ。引き出しの督促状を取り出して、窓口の電話番号を調べる。それだけでいいと思う。

滞納は、あなたの人格の話じゃない。手続きの話だよ。そして手続きには、必ずどこかに線が引かれている。その線を知った人から、順番に楽になっていく。

今日はここまで。あなたの給料にも、守られる部分は最初からある。それだけ持って帰ってくれたら、この記事は役目を果たしたことになるよ。


ここから先は、仕事の話(PR)

ここからは、本文と切り離した話。読み飛ばしてもらって大丈夫だよ。

あの手続きで僕が身につけたのは、法律の知識じゃない。「AIが出した一文を、動かせない原典に一行ずつ照らして確かめる」という作業の癖のほうだった。これは、そのまま仕事に持ち帰れる。

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