診察室を出たら忘れてしまう——親の受診メモとお薬の記録をAIで整理する方法【2026】
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病院のエレベーターを父と二人で降りた直後、ふと尋ねました。「先生、なんて言ってた?」。父は少し黙ってから、「うーん……血圧の薬が、なんか変わったような気もするけど」とつぶやきます。診察室を出てまだ5分も経っていないのに、先生の話は、もうほとんど残っていません。
その日は仕事を半休にして、ようやく付き添えた1回でした。父は内科・整形・眼科の3つの病院に通い、薬も10種類近くあります。けれど薬は病院ごとにバラバラで、全体像は父にも、私にも、誰にも見えていません。次はいつ付き添えるかも分かりません。心の奥に、小さな不安だけが残りました。
この記事の結論を先にお伝えします。親の通院を支えるコツは、限られた診察時間を最大限に活かす”準備”と”記録”を、AIに手伝ってもらうことです。 AIを「受診の通訳・記録係」にする、という考え方です。受診の前には「医師に渡せる受診メモ」を整理し、受診の後には「家族で共有できるやさしい記録」に変える。ただし、AIは診断をしません。薬の良し悪しも判断しません。決めるのは、あくまで医師と薬剤師です。 その線を守りながら、離れていても親の医療を見守る方法を見ていきます。
1. なぜ複数病院・たくさんの薬を飲む親は「記録の空白」を抱えるのか
複数の病院に通い、薬の種類が多い高齢の親ほど、「記録の空白」が生まれやすくなります。これは親の記憶力の問題ではなく、医療を受ける仕組みそのものに原因があります。まずここを理解することが出発点です。
なぜなら、高齢になるほど受診の回数も薬の数も増えるからです。厚生労働省『令和5年 患者調査の概況』によると、75歳以上の外来受療率は人口10万人あたり11,333と、全年齢の中でも高い水準にあります(厚生労働省・令和5年 患者調査の概況)。通う病院が増えれば、それぞれで出される薬も増えていきます。
薬の数についても、公的な指針が実態を示しています。厚生労働省『高齢者の医薬品適正使用の指針』では、75歳以上では約4割が5種類以上、およそ4分の1が7種類以上の薬を処方されていると整理されています(厚生労働省・高齢者の医薬品適正使用の指針)。父の「10種類近く」は、特別に多いわけではないのです。
ここで言葉を一つ、正しく押さえておきます。薬が多い状態は「ポリファーマシー」と呼ばれます。これは単に薬の数が多いことを問題視する言葉ではありません。 同じ指針では、薬が多いことで副作用などの薬物有害事象のリスクが高まる状態を指すとされ、特に6種類以上で関連が見られると整理されています。つまり「数」そのものではなく、「有害事象のリスク」に注目する考え方です。
そして、もう一つの空白があります。同指針(各論編)では、市販薬やサプリメントを定期的に使う高齢の外来患者のうち、それを医師に伝えていた人は約3割にとどまるという調査が紹介されています。残りの多くは、医師が全体像を知らないまま診療が進んでいる可能性があるのです。複数病院の薬の管理が家族にとって難しいのは、こうした空白が重なっているからにほかなりません。だからこそ、受診の前後を整える準備が効いてきます。
2. 【受診前】AIで「医師に渡せる受診メモ」を整理する
受診の”前”にできる最大の準備は、散らばった情報を「医師に渡せる受診メモ」1枚にAIで整理しておくことです。これがあるだけで、限られた診察時間の使い方が大きく変わります。
理由は、診察時間は思っているより短いからです。聞きたいことを思い出せないまま終わり、エレベーターで「あれも聞けばよかった」と気づく——これは準備で防げます。厚生労働省も、医療のかかり方として、伝えたいことや聞きたいことを事前にメモしておくことをすすめています(厚生労働省・上手な医療のかかり方)。AIは、この「メモを整える」作業がとても得意です。
具体的には、次のプロンプト(AIへの指示文)を使います。〔 〕の中を親の状況に置き換えて、コピーして使ってください。プロンプトの基本を知りたい方は、プロンプトの書き方入門もあわせて読むと応用が利きます。
あなたは、高齢者の通院に付き添う家族を手伝う係です。
次のメモを、医師に渡せる「受診メモ」1枚に整理してください。
診断や薬の良し悪しの判断はせず、整理だけをしてください。
・受診する人:〔78歳の父〕
・かかる病院:〔内科。最近、朝の血圧が高め〕
・困っている症状と、いつから:〔2週間前から、歩くと右ひざが痛い〕
・今飲んでいる薬:〔A病院の血圧の薬、B病院の胃の薬…分かる範囲で〕
・市販薬・サプリ:〔市販の痛み止め、ビタミンのサプリ〕
・今日いちばん聞きたいこと:〔ひざの痛みは様子を見ていいか〕
【整理のしかた】
1.「①経緯 ②今飲んでいる薬(市販薬・サプリも含む)
③今日聞きたいこと3つ」の3つの見出しで、箇条書きにする
2. 一文を短く、誰が読んでも分かる言葉にする
※このメモには、氏名・住所・健康保険証の番号・生年月日などの
個人情報は書かないでください。病院名も〔内科〕のように
ぼかして構いません。
最後の一文が、医療の情報を扱ううえでとても大切です。氏名・住所・保険証番号・生年月日といった個人情報は、AIに入れません。 個人情報保護委員会も、生成AIサービスに個人情報や機微な情報を安易に入力しないよう注意を呼びかけています(個人情報保護委員会・生成AIサービスの利用に関する注意喚起)。整理したいのは「症状と薬」であって、「誰か」を特定する情報ではない、と割り切るのがコツです。
実際にこのプロンプトを使うと、現物はここまで変わります。
【before:散らばった付箋・記憶頼り】
・冷蔵庫に「血圧の薬かわった?」の付箋
・父の「ひざが痛い気がする」という口頭の訴え
・引き出しに市販の痛み止め。サプリも何か飲んでいる
・聞きたいことは……たぶん、ひざのこと(うろ覚え)【after:AIが整えた”医師に渡せる受診メモ”】
①経緯:2週間前から、歩くと右ひざが痛む。朝の血圧も高め。
②今飲んでいる薬(市販薬・サプリ含む):血圧の薬、胃の薬、
市販の痛み止め(時々)、ビタミンのサプリ。
③今日聞きたいこと3つ:(1)ひざは様子見でよいか (2)市販の
痛み止めを併用してよいか (3)血圧の薬は今のままでよいか。
beforeは情報が点在し、診察室では半分も伝えられません。afterは「経緯・薬・聞きたいこと3つ」が1枚に並び、医師がひと目で全体像をつかみやすくなります。市販薬とサプリを書き出せたことも、前章の「空白」を埋める一歩です。受診メモのAI整理は、付き添えない日ほど力を発揮します。

上の図のように、バラバラの情報を1枚にまとめてから受診する。この準備が、短い診察時間を最大限に活かします。
3. 【受診中〜直後】先生の話を「わかる言葉」に変換して残す
受診の”中〜直後”にやるべきは、先生の話を「わかる言葉」に変換して残すことです。専門用語のまま忘れてしまう前に、その場の走り書きをAIでやさしく整えます。
なぜ「直後」が大切かというと、説明は時間が経つほど記憶から消えるからです。診察室を出た直後はまだ断片が残っています。完璧な聞き取りでなくて構いません。スマホのメモに、聞こえた言葉をそのまま打ち込んでおくだけで十分です。文字入力が苦手な親には、子が代わりに音声で残す方法もあります。スマホ操作そのものに不安がある場合は、親専用のやさしい手順書をAIで作る方法が役立ちます。
走り書きが残ったら、次のプロンプトでやさしい言葉に変換します。
次は、父の診察の直後に書いた走り書きです。
専門用語を、家族が読んで分かるやさしい言葉に言い換え、
要点を箇条書きに整理してください。
新しい診断や、薬の良し悪しの判断は加えないでください。
分からない部分は「医師・薬剤師に確認」と書いてください。
〔走り書き:血圧の薬、量そのまま。ひざ、炎症あるかも。
しばらく様子見。痛みひどければ受診。次は1か月後〕
このプロンプトのポイントは2つあります。ひとつは「新しい判断を加えないで」と必ず指示することです。AIが気を利かせて診断めいた説明を足すのを防ぎます。もうひとつは、不確かな部分を「医師・薬剤師に確認」と残させることです。あいまいな点をあいまいなまま見える化しておけば、次の受診や薬局で確かめられます。診察直後の数分のメモが、お薬や症状の記録の土台になります。
4. 【受診後】家族で共有できる「親のお薬・受診まとめカード」を作る
受診の”後”にできるのは、整えたメモを「家族で共有できるまとめカード」にすることです。離れて暮らすきょうだいや、次に付き添う人へ、AIで読みやすくバトンを渡します。
理由は、記録は「共有されて初めて」見守りになるからです。自分のスマホの中だけにあっては、付き添えなかった家族には届きません。お薬手帳がその役割を担いますが、お薬手帳は「処方された薬の記録」が中心です。一方でAIで作るまとめカードは、「次回受診日・変わった薬・気になる点」といった、家族の申し送りに必要な情報を整理できます。両者は役割が違い、補い合う関係です。お薬手帳は薬局へ、まとめカードは家族へ、と考えると分かりやすいでしょう。
家族共有カードは、次のプロンプトで作れます。
次の受診メモを、離れて暮らす家族が30秒で読める
「受診まとめカード」に整理してください。
診断や薬の評価はせず、事実の整理だけをしてください。
・受診日と病院の種類:〔6月20日・内科〕
・次回の受診予定:〔7月20日ごろ〕
・今回変わったこと(薬・指示):〔血圧の薬は変更なし。
ひざは様子見〕
・家族が気にしておく点:〔痛みが強くなったら早めに受診〕
【形式】
・「次回受診」「変わったこと」「気になる点」の3項目で、
短く箇条書きに
・専門用語はやさしい言葉にする
※氏名・住所・保険証番号・生年月日などの個人情報は
書かないでください。
このカードを家族のグループに送れば、付き添えなかった人も状況をつかめます。お薬手帳の情報を補う「家族用の見守りメモ」として使うのがコツです。お薬手帳のまとめ方に家族の視点を一つ足すだけで、見守りはぐっと続けやすくなります。

上の早見表のように、「前・中・後」でやることとAIへの頼み方をセットで持っておくと、付き添える日も、付き添えない日も、同じ流れで親を支えられます。
5. AIに「やらせてはいけない」こと——医師・薬剤師との線引き
ここまでAIの使い方を見てきましたが、AIに絶対にやらせてはいけないことがあります。この線引きこそが、医療でAIを安全に使う土台です。次の5つは、AIに任せてはいけません。
第一に、診断をさせない。症状を伝えて「これは何の病気?」と判断させてはいけません。AIは医師ではありません。第二に、飲み合わせや副作用の確認をさせない。「この薬とこの薬は一緒に飲める?」をAIで確かめるのは危険です。これは薬剤師と医師の領域です。第三に、薬の量や中止を判断させない。「この薬、もう飲まなくていい?」とAIに決めさせてはいけません。第四に、緊急時の判断をさせない。急な強い痛みや息苦しさ、ろれつが回らないといった様子は、AIに聞いている場合ではありません。迷わず救急(119番)や医療機関へ連絡してください。第五に、自己診断の道具にしない。AIの答えを「答え合わせ」にして、受診をやめてはいけません。
なぜここまで強く線を引くのか。理由は2つあります。ひとつは、薬の飲み合わせや量の調整は、その人の検査値や持病をふまえた専門的な判断だからです。一般的な情報を返すAIには、その人個別の安全性は判断できません。もうひとつは、AIは事実と違うことを、もっともらしく答える場合があるからです(ハルシネーションと呼ばれます)。見抜き方はAIの”もっともらしい嘘”の見抜き方で解説しています。医療の場面では、この誤りが命に関わりかねません。
ではAIに任せてよいのは何か。それは前章までで見た「整理」と「記録」だけです。受診メモを整える、走り書きをやさしく直す、家族カードにまとめる。判断は一切しません。飲み合わせやお薬の不安があるときは、AIではなく、かかりつけの薬剤師・薬局に相談してください。薬局は、複数の病院の薬をまとめて確認してくれる頼れる窓口です。AIを賢く使うとは、この線を家族で共有しておくことでもあります。なお、不審な健康情報や詐欺的な勧誘に親が触れたときの守り方は、偽SMS・サポート詐欺をAIで親子で見分ける方法もあわせて参考になります。
6. まとめ——「次の受診まで」のAI活用カレンダー
最後に結論をもう一度お伝えします。親の通院は、AIを「受診の通訳・記録係」にすることで、付き添えない日でも支えやすくなります。 前に整え、直後に残し、後で共有する。そして判断は必ず医師・薬剤師に委ねる。この形が、限られた診察時間を最大限に活かします。
続けるコツは、「次の受診まで」を1つのカレンダーで回すことです。難しく考えず、次の3つだけ覚えてください。
- 受診の2〜3日前:第2章のプロンプトで「医師に渡せる受診メモ」を1枚作る。
- 受診の直後(24時間以内):第3章のプロンプトで、走り書きをやさしい記録に整える。
- 月に1回:第4章のカードと、市販薬・サプリを含めたお薬リストを最新に更新する。
この3点を回すだけで、受診のたびに「記録の空白」が少しずつ埋まりやすくなります。
そして、いちばんの近道は、子であるあなた自身がAIに慣れることです。普段の仕事でAIを使えるようになるほど、親に渡す受診メモづくりも自然と上手になります。学び直しの入口は、目的に合わせて選べます。まずUdemyは、AI・ChatGPT活用の動画講座が幅広くそろい、自分のペースで基礎から学べます。もう一歩、仕事での活用まで体系的に学びたい方には、非IT職を主な対象にしたDMM 生成AI CAMPも選択肢になります。仕事にも、親のサポートにも、同じスキルが効いてくることがあります(学びの効果には個人差があります)。
次のアクションは、ひとつだけ。次の受診の2〜3日前に、第2章のプロンプトの〔 〕を埋めて、「医師に渡せる受診メモ」を1枚だけ作ってみてください。 その1枚を親に持たせる、あるいは付き添う自分が持つ。それだけで、次にエレベーターを降りたときの「なんて言ってた?」が、少し減るかもしれません。
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