- 2026年1月、行政書士法が変わった——書類作成は「業」として行えるのは行政書士だけ
- では、AIは何を手伝えるのか——「調べ物の初動」3つだけ
- 建設業許可で具体化する——「AIの調べ物」と「人の確認」はどこで分かれるか
- 【プロンプト1本】許認可の「調べ物の入口」をAIに作らせる——申請書は作らせない
- AIの出力を鵜呑みにできない理由——要件は頻繁に変わり、誤りは「不受理」に直結する
- 依頼者情報と守秘義務——外部AIに、申請者の固有情報は入れない
- 「正しく使う」が問われる時代——線を引いて使える事務所が強い
- まとめ——AIは「調べ物の初動」、作成・代理・判断は行政書士
- AI活用を「自事務所の取扱い業種」に育てたい方へ
- 許認可業務は「報酬と実費が入り混じる」——だから記帳をクラウドで
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行政書士の許認可、AIに任せていいのは「調べ物」まで|2026年改正で変わった独占業務の線
火曜の午前。事務所のモニターに、業界ニュースの見出しが映っている。「行政書士法、改正法が今年1月に施行」。
補助者の手が、入力中の許可申請メモの上で止まる。最近この事務所では、はじめて扱う許認可の下調べにAIを使い始めたばかりだ。必要書類のあたりを付けるのが、たしかに速くなった。
ふと、不安がよぎる。「許認可の書類、AIに作らせるのは——法的に大丈夫なんだろうか」。その問いの答えは、感覚ではなく制度の側にあります。本記事は、その線をはっきりさせる記事です。
2026年1月、行政書士法が変わった——書類作成は「業」として行えるのは行政書士だけ
最初に、いちばん大事な事実を置きます。官公署に提出する書類の作成は、行政書士の独占業務です。そしてこの独占業務の枠組みは、2026年(令和8年)1月1日施行の改正行政書士法でいっそう明確になりました。
なぜこれが、AI活用の前提を左右するのか。理由は、独占業務とは「誰が業として行えるか」を定めた規定だからです。行政書士法は、行政書士でない者が報酬を得て、官公署に提出する書類の作成などを業として行うことを制限しています。違反した場合の罰則も定められています。
出典:総務省「行政書士制度」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/gyouseishoshi/index.html
出典:行政書士法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000004
ここから読み取れる線は、こうです。AIは「業を行う主体」にはなれません。書類作成という独占業務の責任を負うのは、あくまで行政書士です。AIはその作業を助ける道具にすぎない、という位置づけになります。
さらに今回の改正には、もう一つ注目すべき点があります。士業法としては初めて「デジタル社会への対応」が努力義務として規定された、とされています。
出典:総務省自治行政局長通知「行政書士法の一部を改正する法律の公布について(通知)」(令和7年6月13日) https://www.soumu.go.jp/main_content/001014708.pdf
つまり改正は、「AIを使うな」という方向ではありません。むしろ「デジタルに対応せよ」という追い風です。ただし対応の仕方には線がある——独占業務の責任は人が負う、という線です。だからこそ、AIに任せていいのは「調べ物」まで、という発想が要になります。
なお本記事は、特定のAIの使い方が直ちに違法だと断定するものではありません。報酬を得て業として書類を作成する行為が独占業務にあたる、という制度の枠組みを前提に、安全な使い方を整理します。条文の条番号は改正で変わりうるため、本記事では機能名(独占業務・守秘義務など)を中心に説明します。
では、AIは何を手伝えるのか——「調べ物の初動」3つだけ
線を引いたうえで、AIの守備範囲を具体化します。AIに任せていいのは、許認可業務の「調べ物の初動」です。具体的には、①必要書類の洗い出し、②要件の下調べ、③チェックリスト化の3つに絞れます。
なぜこの3つだけなのか。理由は、いずれも「素案を作る作業」であって、「最終的な作成・判断」ではないからです。許認可の種類は膨大で、はじめて扱う業種では「何を調べればいいか」の地図づくりに時間が溶けます。その地図の下書きこそ、AIが得意とする領域です。
たとえば、こう使い分けます。AIに出させるのは「古物商許可では一般にどんな書類が要るか」「どの窓口を調べればよいか」という当たり付け。一方で、その書類が本当に必要か、自治体独自の様式はないか、依頼者がそもそも要件を満たすかの確認は、行政書士が公式手引きで詰めます。
この3つを、もう少しほどいてみます。
①必要書類の洗い出し。 はじめて扱う許認可ほど、「そもそも何が要るのか」の全体像がつかめません。ここでAIに、一般的に必要とされる書類の候補を一覧で出させます。あくまで候補であって、確定リストではありません。
②要件の下調べ。 「どの窓口を調べればよいか」「どの論点を確認すべきか」という、調べる先と論点の見当をつける作業です。ゼロから手引きをめくる前に、見るべき場所の地図を手にできます。
③チェックリスト化。 ①②をまとめ、印刷して使える叩き台にします。この叩き台を持って、行政書士が公式手引きと一つずつ照合していく——その出発点になります。
3つに共通するのは、いずれも「申請書そのもの」ではなく、「申請書に至るための地図」だという点です。AIが出すのは地図であって、申請書ではありません。
逆に言えば、地図から先はすべて人の仕事です。その書類が本当に必要か、自治体独自の様式はないか、依頼者がそもそも要件を満たすか。どの業種区分で申請するか。申請書そのものの作成。依頼者への法的な説明——ここはAIに渡さず、行政書士が責任をもって握ります。
要するに、AIは「調べ物の初動」だけを担う。作成・代理・判断は行政書士。この分担を崩さなければ、効率化と独占業務の責任は両立できると考えられます。

建設業許可で具体化する——「AIの調べ物」と「人の確認」はどこで分かれるか
抽象論だけでは現場で使えないので、許認可を1種に絞って深掘りします。題材は建設業許可です。書類の種類が多く、自治体ごとに手引きが違うため、AIと人の分担がいちばん見えやすい題材だからです。
建設業許可の必要書類は、おおまかに「申請書本体」「確認資料」「添付書類」に分かれます。さらに、許可を出すのが国土交通大臣か都道府県知事かで窓口が変わり、提出様式や添付の細目は自治体ごとの手引きで異なります。
出典:国土交通省「建設業 許可申請の手続き」 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000086.html
ここでAIの「調べ物の初動」が効きます。たとえば「建設業許可(知事許可・一般)で一般にどんな書類区分があるか」を、最初の地図として出させる。「経営業務の管理責任者や専任技術者まわりで確認すべき論点は何か」も同様です。はじめて担当する補助者でも、ゼロから手引きをめくるより、論点の見当をつけてから読み始められます。
ただし、ここからが人の仕事です。AIの出力は「標準的な要件」ベースで止まります。実際の申請では、提出先の都道府県・市区町村が公開する最新の手引きで、様式・部数・添付の細目を一つずつ照合する必要があります。手引きの多くは、自治体の公式サイト(lg.jpドメイン)で配布されています。経営業務の管理責任者や専任技術者の要件を満たすかどうか、どの業種区分で申請するかの判断は、行政書士が責任をもって行います。
自治体の手引きの例:東京都の場合、都市整備局が建設業許可の手引き・申請様式を公開しています(提出先・年度により内容が変わるため、申請時点の最新版を必ず確認してください)。
建設業許可で言えば、AIは「どこを調べるべきか」までを照らし、「この申請でこの書類が要る・この要件を満たす」という結論は人が出す。1種に絞って見ると、調べ物と判断の境目がはっきりします。

【プロンプト1本】許認可の「調べ物の入口」をAIに作らせる——申請書は作らせない
分担がわかったら、調べ物の初動を1本のプロンプトに落とし込みます。狙いは、AIに申請書を作らせないことです。出させるのは「必要書類の候補リスト」と「確認すべき一次情報の所在」だけ。プロンプト自体に、作成・最終判断をさせない制約を組み込みます。
なぜ制約を先に書くのか。理由は、制約のないAIは親切心から「これで申請できます」と踏み込んでしまうからです。だから役割を「リサーチの設計」に絞り、出力はあくまで地図に限定します。依頼者の固有情報は入れず、匿名化して使います。
以下をそのまま使えます。
あなたは行政書士事務所の「調べ物の初動」を補助するアシスタントです。
あなたは申請書類の作成も、要件を満たすかどうかの最終判断もしません。
出力は「何を調べ、どの一次情報で確認すべきか」の地図だけにしてください。
【入力情報(依頼者の固有情報は入れず、匿名化して書く)】
許認可の種類:[例:古物商許可 / 建設業許可(知事許可・一般)]
申請者区分:[個人 / 法人]
所在地(都道府県のみ):[例:東京都]
事業の概要:[例:中古品の店舗販売 / 内装工事の請負]
【出力してほしい内容】
1. 一般的に必要とされる書類の「候補」一覧(あくまで候補・要確認の前提で)
2. それぞれについて「確認すべき一次情報の所在」
(例:管轄窓口の名称・国や自治体の公式手引きで確認すべき項目)
3. 確認すべき論点リスト(要件・添付の細目で見落としやすい点)
4. 窓口・提出先の調べ先(どこに当たれば最新情報があるか)
【守る制約】
- 「この書類で申請できる」「要件を満たす」など、結論や判断は書かない
- 各項目に「※最新の公式手引きで要確認」と添える
- 申請書そのものの文面は作成しない
このプロンプトのキモは、出力の各項目に「※最新の公式手引きで要確認」が付く点です。AIが出すのは調べる入口であって、答えそのものではない——その前提を出力の形で固定しています。
地図を作るのはAI、地図を検証して道を決めるのは人。プロンプトに「やらせないこと」を先に書くほど、出力は安全側に寄ります。
なお、AIの出力を一次情報で照合する目そのものを鍛えたい方は、こちらも参考になります。
→ AIの”もっともらしい嘘”を見抜く・防ぐ方法(非IT職向け)
AIの出力を鵜呑みにできない理由——要件は頻繁に変わり、誤りは「不受理」に直結する
調べ物の初動が速くなるほど、忘れてはいけないことがあります。AIの出力は、そのままでは申請に使えない、ということです。必ず官公署の最新手引きと照合する一手間が要ります。
理由は2つあります。1つ目は、AI自身の特性です。生成AIは、事実に基づかない情報をもっともらしく出力することがあると、公的にも指摘されています。
出典:総務省『令和7年版 情報通信白書』 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd226330.html
2つ目は、許認可という分野の特性です。許認可の要件や添付書類は、法改正・省令改正・自治体の独自ルール変更で頻繁に変わります。AIの出力は学習時点の「標準的な要件」にすぎず、最新の運用を保証しません。
この2つが重なると、現場では小さなズレが大きな損になります。たとえば、AIの出力を信じて添付書類を1点欠いたまま窓口に出せば、申請は受理されず出直しになりかねません。再準備・再提出にかかる時間と、依頼者への謝罪。本来は数分の照合で防げたはずのコストです。
だからこそ、運用ルールはシンプルに決めておきます。AIの出力リストは「これから調べる項目の一覧」として扱い、各項目を必ず管轄窓口・最新の公式手引きで確認してから申請に進む。AIが照らした入口を、人が一つずつ確かめる——この順番を崩さないことが、不受理を防ぐいちばんの近道です。
依頼者情報と守秘義務——外部AIに、申請者の固有情報は入れない
もう一本、越えてはいけない線があります。依頼者情報の取扱いです。ここを外すと、効率化のはずが情報管理の事故になりかねません。
行政書士には、業務上知り得た秘密を守る義務があります(守秘義務)。これは行政書士法が定める義務であり、依頼者の情報を外部のAIサービスに入力する運用は、この義務との整合を事務所が確認する必要があります。
加えて、個人情報保護法のルールも重なります。個人情報保護委員会のガイドラインは、安全管理措置を事業の規模・性質に応じて講じるよう求めています。「うちは小さい事務所だから対象外」ではない、という点に注意が必要です。
出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
実務に落とすと、答えはひとつです。外部AIに依頼者の固有情報は入れない。先のプロンプトで「所在地は都道府県のみ」「依頼者の固有情報は匿名化」と書いたのは、このためです。氏名・住所・法人名・連絡先は伏せ、申請の「型」だけを入力します。
入力先のサービスについても、業務向けの設定で入力データが学習に使われない運用かを確認しておくと安心です。条件やプラン名は変わるため、その時点の最新条件で判断してください。守秘義務と個人情報保護——この二重の線の内側でだけ、AIを使う設計にしておきましょう。
「正しく使う」が問われる時代——線を引いて使える事務所が強い
最後に、改正の趣旨に戻ります。今回の改正で士業法として初めて「デジタル社会への対応」が努力義務に位置づけられた、とされています。これは「AIを使え」でも「使うな」でもなく、「正しく使う」が問われる時代に入った、というサインだと読めます。
正しく使うとは、線を引いて使うことです。本記事で見てきたとおり、AIに任せていいのは調べ物の初動まで。作成・代理・判断は行政書士が握る。守秘義務と個人情報の線を守る。この3本の線を、事務所のルールとして明文化しておくことが、デジタル対応の第一歩になります。
そのうえで、AIを「自事務所の取扱い業種に育てる」発想が効いてきます。古物商が多い事務所、建設業許可が中心の事務所——扱う業種が違えば、調べ物の論点も違います。汎用のプロンプトを、自所の主力業種に合わせて少しずつ調整していくと、初動の精度が上がっていきます。そのためのAI活用スキルを体系的に学んでおくと、自分で安全な制約を組み込めるようになります。
他士業の線引きも、自所の運用の参考になります。弁護士法72条(相談業務の非弁)との対比、税理士事務所の書類チェックの事例もあわせてご覧ください。
→ 弁護士事務所のAI受付——非弁の線をどこで引くか
→ 税理士事務所の書類チェックをAIで——確認の抜け漏れを防ぐ
まとめ——AIは「調べ物の初動」、作成・代理・判断は行政書士
2026年1月施行の改正行政書士法は、官公署提出書類の作成が行政書士の独占業務であることをいっそう明確にし、同時にデジタル対応を努力義務に位置づけました。この2つを重ねると、答えは1つに絞られます。AIに任せていいのは「調べ物の初動」まで、ということです。
本記事で引いた線を、もう一度整理します。
- AIに任せる: 必要書類のあたり付け・確認すべき論点の洗い出し・チェックリストの下書き(=調べ物の初動)
- 人=行政書士が握る: 申請書の作成・要件適合や種別選択の判断・依頼者への説明(=独占業務と最終責任)
- 守る線: 出力は必ず最新の公式手引きで照合/外部AIに依頼者の固有情報は入れない(守秘義務・個人情報)
AIが照らすのは入口、進む道を選ぶのは人。この順番を守れる事務所こそ、デジタル対応の時代に強い事務所です。
次のアクション: 自所がいま扱っている許認可を1つ選び、本記事のプロンプトで「調べ物の入口リスト」を作ってみてください。そのうえで各項目を最新の公式手引きで照合すれば、AIと人の分担を一度の案件で体感できます。
AI活用を「自事務所の取扱い業種」に育てたい方へ
本記事のプロンプトは、扱う業種に合わせて調整するほど初動の精度が上がります。その土台になるのが、ChatGPTへの指示の出し方・安全な制約の組み込み方といったAI活用の基礎です。Udemyには事務職・非エンジニア向けの「ChatGPT・AI業務活用」講座がそろっています(執筆時点)。プロンプトを自所の主力業種に育てる学習サイクルにおすすめです。
→ Udemy:AI・ChatGPT活用講座を探す(PR)
許認可業務は「報酬と実費が入り混じる」——だから記帳をクラウドで
行政書士の許認可業務は、報酬だけでなく、登録免許税・証紙代・交通費といった実費の立替が案件ごとに発生します。誰のどの案件で、いつ何を立て替え、いつ精算したか——この入り混じった出入りを表計算で追うと、月末の照合がそのまま負担になります。クラウド会計で請求・記帳をひとつにまとめておくと、案件ごとのお金の動きが追いやすくなり、数字の確認に取られる時間も短くできます。なお、これは事務効率化の話であり、許認可の取得・受理や集客を保証するものではありません。
→ マネーフォワード クラウド:請求・会計をまとめて(PR)
本記事は執筆時点(2026年6月)の情報に基づきます。法令やAIサービスの機能・条件は変更される場合があります。本記事は法的アドバイスを目的としたものではなく、許認可の取得・受理を保証するものでもありません。具体的な手続き・要件は管轄の官公署および行政書士にご確認ください。
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