カスハラ電話の記録術|ChatGPTで線引き基準と報告書を作る【2026義務化】

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73.3%——厚生労働省の調査で、カスハラ(カスタマーハラスメント)への取組が「特にない」と答えた製造業の割合だ。その状態のまま、2026年10月1日、カスハラ対策はすべての事業主の義務になる。

夕方の事務所。1時間12分の通話を終えた部下が、受話器をゆっくり戻す。顔は強張り、メモを握る指は白い。あなたが言えたのは「記録だけ残しておいて」。その先の指示が出ないのは、何がクレームで、どこからがカスハラなのか、管理職のあなた自身も線を引けないからだ。

この記事では、高額な録音SaaSやコンサルに頼らず、手持ちのChatGPTで次の3点セットを自前で作る手順を、プロンプト全文と出力例つきで示す。

  1. カスハラ線引き基準表——電話を組織対応に切り替える判断の物差し
  2. 対応記録テンプレ——電話を切った直後3分で書ける記録様式
  3. エスカレーション文書——現場から管理職への一報フォーマット

なお、本記事は「社内の防衛記録」づくりに絞る。お客様へ送る返信文そのものを作りたい場合は、姉妹記事のクレーム対応の返信文をChatGPTで作るテンプレ集が担当だ。社外への文面はあちら、社内の記録と報告はこちら、という役割分担で読んでほしい。また、個別の事案がカスハラに該当するかの法的判断は、本記事ではできない。迷う事案は記事末尾で案内する公的窓口や、弁護士・社労士などの専門家に相談してほしい。

2026年10月1日、「何もしていない73.3%」のままでは済まなくなる

カスハラ対策は、もう「意識の高い会社がやること」ではない。全事業主の法律上の義務になる。根拠は2025年6月11日公布の改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)だ。2026年(令和8年)10月1日から、カスハラ防止のための雇用管理上の措置が義務化される。詳細は厚生労働省の改正法解説ページで確認できる。対象は労働者を1人でも雇うすべての事業主。中小企業の猶予期間はない。

罰則はどうか。直接の刑事罰はない。ただし、行政による報告徴求や助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名公表の対象となり得る。罰金がないから後回しでよい、とは言いにくい作りだ。

では現場の準備はどうか。厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、カスハラに関する取組が「特にない」企業は全体の55.8%。製造業に限ると73.3%に跳ね上がる。一方、同調査では過去3年にカスハラの相談があった企業は27.9%で、前回調査から8.4ポイント増えた。他のハラスメント相談が減少傾向にある中、カスハラだけは「増加」が「減少」を大きく上回る。無対策と被害増加と義務化が、同時に迫っている。

義務の中身は10項目。本記事が支援するのは「記録」と「体制」の2つ

厚労省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」では、事業主が講ずべき措置として10項目が示されている。方針の明確化と周知、相談窓口の整備、被害者への配慮、再発防止などが並ぶ。その中で、この記事の3点セットが直結するのは次の2つだ。

  • 措置⑤「事実関係を迅速かつ正確に確認する」→ 成果物②対応記録テンプレ
  • 措置⑧「特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する」→ 成果物①線引き基準表+成果物③エスカレーション文書

つまり、これから作る文書は「あると便利なメモ」ではない。義務化された措置の実施そのものを支える証跡になる。

「電話だからカスハラじゃない」は、もう通用しない

同リーフレットはカスハラの定義として3要素を示している。①顧客等の言動であって、②社会通念上許容される範囲を超え、③労働者の就業環境が害されるもの、だ。そして「電話やSNS等のインターネット上において行われるものも含まれます」と明記されている。対面で凄まれていなくても、電話だけで3要素を満たし得るということだ。電話対応が集中する事務職こそ、この義務化が守ろうとしている当事者にほかならない。

成果物①|ChatGPTで自社版「カスハラ線引き基準表」を作る

正当なクレームとカスハラの線引き境界図。「要求内容の妥当性」と「手段・態様の相当性」の2軸で対応継続と組織対応の境界を示す図解

最初に作るのは、記録様式ではなく線引き基準表だ。前出の実態調査で、企業がハラスメントの取組を進める上での課題の第1位は「ハラスメントかどうかの判断が難しい」で59.6%にのぼる。判断の物差しがないまま記録だけ取っても、「で、これはカスハラなの?」で議論が止まる。電話の最中に現場が参照できる1枚の表が先だ。

判断軸は2つで足りる。「要求の内容は妥当か」と「要求の手段・態様は相当か」だ。厚労省リーフレットには、許容範囲を超えた言動の例が並ぶ。暴言などの精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、不退去や居座りといった拘束的な言動だ。前出の実態調査では、長電話も拘束的な言動の例に含まれている。この公的な例示を、自社の電話でよくある場面に翻訳させる。それがChatGPTの仕事だ。

プロンプト全文(「当社の情報」3行を書き換えるだけ)

あなたは中小企業のカスタマーハラスメント対策の実務担当者です。
厚生労働省の指針が示す「社会通念上許容される範囲を超えた言動」の
考え方(要求内容の妥当性×手段・態様の相当性の2軸)を参考に、
当社の電話対応向け「カスハラ線引き基準表」のたたき台を作ってください。

# 当社の情報(ここを自社に書き換える)
- 業種:金属部品の受託加工(従業員28名)
- 電話の相手:法人の発注担当者が中心、個人客はまれ
- よくある電話:納期の問い合わせ、不良品の指摘、価格交渉

# 出力形式
「場面」「対応を続ける目安(正当なクレーム)」
「組織対応に切り替える目安(カスハラの疑い)」の3列の表。
場面は当社の電話実態に合わせて5つ。
最後に「この表だけで判断できないケースの扱い」を3行で添えてください。
断定的な法的判断はせず、あくまで社内検討用のたたき台として書いてください。

ChatGPT出力例(現物)

上のプロンプトを実際にChatGPTに入力して返ってきた表が、これだ(見出し語のみ整形。内容は出力のまま)。

場面 対応を続ける目安(正当なクレーム) 組織対応に切り替える目安(カスハラの疑い)
不良品の指摘 事実の指摘と、交換・原因説明の要求 「誠意を見せろ」と金銭・謝罪行為を繰り返し要求する
納期の問い合わせ 遅延理由の確認と新納期の調整要望 怒鳴り声、担当者への人格否定(「無能」「潰すぞ」等)
同じ件での再電話 前回回答に新しい事実を加えた確認 同じ内容を週に何度も、1回1時間超繰り返す
担当者への不満 担当変更や説明のやり直しの要望 担当者個人のSNS・自宅に言及する、退職を要求する
通話の終了場面 説明に納得できず再説明を求める 電話を切らせない、「切ったら会社に行く」と告げる

末尾には「この表だけで判断できない場合は、1人で判断せず管理職に相談し、対応を保留する」という3行の注記も付いてきた。所要時間は15分。重要なのは、この表を「完成品」ではなく「たたき台」として扱うことだ。自社の実例——あの取引先の、あの電話——を2〜3件追記し、最後は管理職と経営者が確認して社内の正式版にする。判断の物差しを決めるのは会社であり、AIはその下書き係に徹してもらう。

電話の「切り方」も基準表に1行書き込んでおく

組織対応に切り替える側には、切電の手順も添えたい。感情的にガチャ切りすれば、それ自体が次の火種になる。たとえば「同じご説明の繰り返しになる場合は、お電話を終了させていただきます」と予告する。それでも続くなら終了を告げて切り、切った時刻と理由を記録する。ここまでを社内手順として決めておく(ここに挙げたのは一例で、自社の方針として正式に定めることが前提だ)。

「カスハラ扱いしてはいけないもの」も表に必ず入れる

基準表には、カスハラに分類してはいけない側の例も必ず入れる。商品の欠陥への正当な指摘や、説明不足への問い直しは、手段が相当である限り誠実に対応すべきクレームだ。また、指針では障害のある顧客等への対応について、障害者差別解消法の合理的配慮に留意することも求められている。聞き取りに時間がかかる、繰り返しの説明を求める、といった事情だけでカスハラ扱いするのは誤りだ。「従業員を守る」と「顧客を排除しない」を両立させてはじめて、基準表は社内外に説明できるものになる。

成果物②|電話を切った直後3分で書ける「対応記録テンプレ」

線引きの次が記録だ。ここで本記事いちばんの実務Tipsを先に言う。電話カスハラの記録は、1回の暴言の内容よりも「回数と累積時間」が効く。前出の実態調査では、労働者が受けた行為の最多は「継続的な、執拗な言動」で57.3%。長電話を含む「拘束的な言動」も15.8%ある。電話カスハラの実態は、1発の強烈な暴言よりも「週3回、毎回1時間」の累積として現れる。1件ごとの記録に「この相手からは通算何回目・累計何時間」の列がなければ、その悪質性は紙の上に現れない。

テンプレは次の9項目で足りる。Excelでも紙の様式でもいい。

項目 記入例
記録日時・記録者 2026/6/11 16:40 佐藤
着信日時・通話時間 2026/6/11 15:10〜16:22(72分)
相手 A社・K氏(実名は社内台帳のみ。共有用は記号化)
用件・要求内容 納品済み部品の無償全数再検査の要求
相手の発言(できるだけ原文) 「タダで全部検査しろ」「夜中でも電話するからな」
当方の対応 検査規格を説明。上長確認のため折り返しを提案
この相手からの累積 通算7回目/累計5時間40分(初回5/28)
対応者の状態 通話後も動悸が続く。途中から手が震えた
次のアクション 課長へエスカレーション文書を提出(本日中)

「対応者の状態」の行は飾りではない。カスハラの定義3要素の③は「労働者の就業環境が害される」ことであり、対応者の心身への影響は組織として把握すべき情報だ。同調査でも、繰り返し被害を受けた労働者の26.4%が「眠れなくなった」と回答している。

走り書きを「正式な記録」に整えるChatGPTプロンプト

電話直後の現場に書けるのは走り書きまでだ。それでいい。整形はChatGPTに任せる。

以下は、顧客からの電話対応直後の走り書きメモです。
これを9項目(記録日時・記録者/着信日時・通話時間/相手/
用件・要求内容/相手の発言/当方の対応/この相手からの累積/
対応者の状態/次のアクション)の対応記録に整理してください。

ルール:
- 事実と、対応者の感想・推測を分けて書く
- メモにない情報は推測で埋めず、その欄に「不明」と書く
- 相手の発言は要約せず、メモにある言い回しをそのまま残す

# 走り書きメモ
(ここに貼り付け。氏名・社名・電話番号は記号化してから貼ること)

ポイントは「推測で埋めない」の一文だ。記録の価値は正確さで決まる。AIが気を利かせて空欄を創作したら、記録全体の信頼が崩れる。不明は不明のまま残し、後から本人に確認して埋める。

そしてもう1つ、記録がうまく機能しない原因は書式より前の段階にあることが多い。対応した本人が、電話を切った後に記憶を頼りに書いているのだ。怒鳴られた直後の記憶は感情と混ざり、時系列も相手の発言も曖昧になる。しかも、思い出しながら書く作業そのものが、本人に同じ電話をもう一度体験させる二次負担になる。PLAUD NOTE(PR)のようなAIボイスレコーダーで通話を録音しておく手がある。文字起こしをChatGPTに渡せば、「いつ・誰が・何を言ったか」だけを抜き出した記録に整えられる。記録づくりを、本人の記憶力と精神力に頼らないこと。それが「守る記録術」の出発点になる。

ただし録音は、相手への事前の案内と社内ルールとの整合が前提になる。守るべき運用ルールは、後述の「匿名化と録音、2つの注意」で詳しく扱う。なお、録音の文字起こしには人名・型番の誤変換がつきものだ。直し方はAI文字起こしの誤変換を5分で直す校正術にまとめている。

成果物③|「一人で対応させない」を実装するエスカレーション文書

電話カスハラのエスカレーションフロー図。現場の一次対応から管理職への一報、組織対応・外部相談までの3段階の流れを示す図解

3つ目は、現場から管理職への一報フォーマットだ。厚労省リーフレットが示す措置には、あらかじめ定めた対処内容として、管理監督者に指示を仰ぐこと、可能な限り一人で対応させないことが含まれている。だが現実はどうか。実態調査では、カスハラを受けた労働者の35.2%が「何もしなかった」と答えている。我慢が習慣になった職場では、声は自然には上がらない。だから管理職の仕事は「困ったら相談しろ」と言うことではなく、上げやすい型を先に配ることだ。

一報フォーマットは5項目でいい。メールでもチャットでも使える。

【カスハラ疑い・一報】
1. 相手:A社・K氏(共有用記号)
2. 経緯:5/28初回から通算7回・累計5時間40分(対応記録No.3〜9)
3. 直近の発言:「夜中でも電話するからな」(6/11 72分通話)
4. 現場の状況:担当者1名で対応継続中。通話後に体調不良の訴え
5. 依頼:次回着信から管理職対応に切り替えたい/対応方針の指示が欲しい

対応記録が溜まっていれば、経営層や社外の専門家に相談するための時系列サマリーもChatGPTで作れる。

以下の対応記録(7件)をもとに、経営層・社外専門家への相談用に
A4・1枚の時系列サマリーを作ってください。
ルール:日付順の事実のみ。評価・感情表現・法的判断は書かない。
回数と累積通話時間を冒頭に明記する。
# 対応記録
(記号化済みの記録を貼り付け)

ここで管理職が必ず添えるべき一文がある。「記録はあなたを疑うためではなく、あなたを守るために取る」。記録の目的を明文化しないと、現場は「自分の対応ミスを探されている」と感じ、記録から逃げる。エスカレーションの第一報には、まず「報告ありがとう。判断は正しい」と返す。それが運用を回す最低条件だ。

なお、脅迫めいた言動など犯罪に該当し得るケースについて、リーフレットでは警察への通報も対処の例として挙げられている。「どの段階で警察・弁護士に相談するか」も、対処方針にあらかじめ書き込んでおきたい。

通話内容をChatGPTに渡す前に——匿名化と録音、2つの注意

便利さの前に、守るべき手順が2つある。どちらも3点セットの信頼性を支える土台だ。

第一に匿名化個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人情報を入力する際の注意喚起を公表している。通話メモや文字起こしをChatGPTに渡す前に、相手の氏名・会社名・電話番号は「A社・K氏」のような記号に置き換える。総務省・経済産業省のAI事業者ガイドラインでも、AIの利用者には個人情報・機密情報の入力管理が求められている。学習に使わせない設定(オプトアウト)の確認もセットで行う。

第二に録音のルール化。録音する場合は「この通話は録音させていただきます」と事前に案内する運用が広く推奨されている。録音データは保管場所と閲覧できる人を限定し、就業規則や会社方針との整合を導入前に確認する。録音があれば法的に必ず有利になる、とは断定できない。それでも、措置⑤「事実関係を迅速かつ正確に確認する」という実務には確実に効く。位置づけは「証拠の武器」ではなく「記憶に頼らないための装置」と考えるのが健全だ。

管理職の残りの仕事——文書では身につかないものを補う

3点セットが揃っても、義務化対応はまだ半分だ。文書が支えるのは「判断と記録」であって、方針の社内周知、相談窓口の指定、被害を受けた部下への配慮といった残りの措置は、管理職と経営者の運用そのものだからだ。

公的な支援は無料で揃っている。厚労省のハラスメント対策ポータルには、企業向けのカスハラ対策マニュアルや研修資料が公開されている。東京都内の事業者なら、国に先行して2025年4月に施行された全国初のカスハラ防止条例に合わせて都が公開した業界共通マニュアルも参考になる。個別事案の判断に迷うときの公式窓口は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)だ。

電話対応の負荷そのものを構造的に減らす道もある。よくある問い合わせの自動応答化はコールセンターのFAQエージェント構築事例が参考になる。電話以外のチャネルで悪質クレームを仕分けたい場合はホテルのレビュー返信トリアージ事例で扱った。

最後に、文書の限界も正直に書いておく。部下から「代わってください」と受話器を渡された、その後の数分間は文書の外の世界だ。毅然とした対応と謝罪をどう切り替えるか。電話を切った部下に、最初の30秒で何と声をかけるか。この対人対応だけはテンプレでは身につかない。Udemy(PR)には、クレーム対応やハラスメント対策、部下を守る管理職向けマネジメントの講座が揃っている。仕組みを作った後の「人の引き出し」を増やす選択肢として挙げておく。

まとめ|義務化までのタイムラインと、今日やる宿題1つ

最後に、義務化までのタイムラインを確認する。

日付 出来事
2025年4月1日 東京都カスハラ防止条例 施行(全国初)
2025年6月11日 改正労働施策総合推進法 公布(令和7年法律第63号)
2026年2月26日 カスタマーハラスメント防止指針 公布
2026年10月1日 カスハラ防止措置が全事業主の義務に(中小企業も猶予なし)

執筆時点(2026年6月11日)で、施行まで残り112日。3点セットのたたき台は1日で作れるが、社内の正式版にするには上長確認と周知の時間が要る。逆算すれば、着手は「いつか」ではなく今週だ。

宿題は1つだけだ。今日、成果物①のプロンプトの「当社の情報」3行を自社に書き換えて、ChatGPTで1回実行する。 所要15分。出力された表を印刷して電話機の横に置いた瞬間から、部下は「組織対応に切り替えていい電話」を判断する物差しを手にする。73.3%の側から抜け出す最初の一歩は、その15分で踏み出せる。

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応は、弁護士・社会保険労務士、または都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))にご相談ください。

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