- Bさん(認知症・83歳)の指示書に「声かけの順番」が書いていなかった
- 「指示書ミス」は3つの利用者タイプに集中する——なぜ全員同じ書式が危ないのか
- 【中核装置】3タイプ別の打ち手——認知症・身体介助・通院透析で指示書を分岐設計する
- 【Type A】認知症対応型——AIに「混乱トリガーと声かけ順」を先に書かせる
- 【Type B】身体介助型——AIに「車椅子・段差・介助手順」をチェックリスト化させる
- 【Type C】通院透析型——AIに「体調フラグ・時刻厳守・連絡先順位」を先出しさせる
- 利用者の医療・個人情報をAIと使うときのルール——入れていい情報・入れてはいけない情報
- 「全員同じ指示書」から「3タイプ別設計」へ——ドライバーの「えっ」をなくすために
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介護タクシーの配車指示書ミスは「利用者タイプ」で決まる——認知症・身体介助・透析の3パターン別AIエージェント設計
Bさん(認知症・83歳)の指示書に「声かけの順番」が書いていなかった
2ヶ月前、ある配車担当者がBさんの送迎指示書に「乗車後の声かけ」を書き忘れた。
Bさんは軽度から中度の認知症の利用者だ。いつもなら担当ドライバーが「Bさん、今日はいい天気ですね」と天気の話から入る。それが安定の合図だった。
その日は別のドライバーが急きょ代走した。指示書には行き先と時間しか書いていない。新人ドライバーは悪気なく、いきなり本題から入った。「では病院に向かいますね」。
Bさんは車内で混乱し、泣いてしまった。
このとき配車担当者を打ちのめしたのは「効率の悪さ」ではない。「指示書に書いてさえあれば、Bさんを泣かせずに済んだ」という事実だ。
ここに、介護タクシーの指示書づくりの本質がある。配車指示書の「抜け」は、利用者のタイプによって起きる場所が違う。 全員に同じ書式・同じプロンプトを使うことが、実はミスの温床になっている。
この記事では、認知症・身体介助・通院透析という3つの利用者タイプごとに、指示書で抜けやすい情報をAIに先回りさせる「3パターン分岐」の設計を、実際に使えるプロンプト付きで示す。汎用の1本ではなく、タイプ別に分けることで初めて、ドライバーの「えっ、書いてなかった」がなくなる。
「指示書ミス」は3つの利用者タイプに集中する——なぜ全員同じ書式が危ないのか
結論から言う。指示書の抜けは、ランダムには起きない。利用者の属性ごとに「抜けやすい場所」が決まっている。
理由は、介護タクシーが扱う利用者の幅にある。介護タクシー(福祉タクシー)は、道路運送法に基づく許可制度のもとで、高齢者や障害のある方の移動を担う公共性の高いサービスだ(国土交通省「自動車:福祉タクシー」https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk3_000007.html)。単なる移動ではなく、利用者一人ひとりの状態に合わせた配慮が前提になる。
そして、その配慮の中身はタイプごとにまったく違う。
- 認知症の方には「声かけと心理面」の情報が要る
- 身体介助が必要な方には「機材と手順の数値」が要る
- 透析通院の方には「時刻と体調フラグ」が要る
ところが多くの現場では、全利用者に1種類の指示書テンプレートを使う。すると、認知症の方の指示書には機材欄が並び、肝心の声かけ欄がない。透析の方の指示書には住所は丁寧でも、体調急変時の連絡順位が抜ける。書式が利用者に合っていないから、抜けが起きる。
高齢者の移動手段は、もはや個人の問題ではなく社会インフラだ。国土交通省も高齢者の移動手段確保を政策課題として整理している(国土交通省「高齢者の移動手段を確保するためのパンフレット」https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_tk_000120.html)。背景には高齢化の加速がある。65歳以上人口は3,624万人、高齢化率は29.3%に達し、後期高齢者(75歳以上)が急増している(内閣府「令和7年版高齢社会白書」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/html/zenbun/s1_1_1.html)。
利用者が増え、状態も多様になるほど、「全員同じ書式」のひずみは大きくなる。だからこそ、タイプ別に分岐させる発想が要る。
【中核装置】3タイプ別の打ち手——認知症・身体介助・通院透析で指示書を分岐設計する
ここがこの記事の心臓部だ。指示書を1本に統一するのをやめ、利用者を3タイプに分け、それぞれ「抜けやすい情報」をAIに先回りさせる。
下の図が全体像だ。

| タイプ | 利用者像 | 指示書で抜けやすい情報 | AIに先回りさせる役割 |
|---|---|---|---|
| Type A 認知症対応型 | 83歳・軽度〜中度 | 声かけの順番、混乱トリガー、機嫌が安定する話題 | 「混乱しやすい状況TOP3」と「穏やかになる声かけ例」を生成 |
| Type B 身体介助型 | 78歳・パーキンソン | 車椅子サイズ、段差情報、介助手順の数値 | 機材チェックリストと段差対応手順を自動でリスト化 |
| Type C 通院透析型 | 85歳・週3回透析 | 透析後の体調フラグ、時刻厳守、緊急連絡先の優先順位 | スケジュール別の体調変化パターンと優先連絡先を先出し |
ポイントは、AIに「指示書を全部書かせる」のではないことだ。AIにやらせるのは、タイプごとに抜けやすい項目を先回りで埋めること。最終的な指示書を確定するのは、利用者を知っている人間の配車担当者だ。
なぜこの分け方が効くのか。理由はシンプルで、ドライバーが現場で困る瞬間がタイプごとに違うからだ。認知症の方では「乗ってから」、身体介助の方では「乗せるとき」、透析の方では「降ろした後」に困りやすい。困る瞬間に合わせて情報を用意すれば、「書いてなかった」は構造的に減る。
配車業務をこうしたAIの仕組みで変えていくには、自己流の手探りより、体系立てて学ぶほうが結局は近道になる。配車担当者がAI活用を一から学ぶなら、Udemyのようなオンライン講座で「プロンプトの作り方」から押さえておくと、自分の事業に合わせた応用がきく。動画で必要な単元だけ選べるので、早朝や送迎の合間にも進めやすい。
では、3タイプそれぞれの具体的な打ち手を見ていく。
【Type A】認知症対応型——AIに「混乱トリガーと声かけ順」を先に書かせる
Type Aで抜けやすいのは、機材でも住所でもない。「心理面の段取り」だ。冒頭のBさんの一件は、まさにこの抜けで起きた。
主張はこうだ。認知症対応型の指示書には、乗車前・乗車中・降車後の声かけ順と、混乱しやすい状況を必ず明記する。 認知症の利用者は「いつもの声かけの順番が変わっただけで不安になる」ことがある、というのが現場の知見だ。順番は情報であり、引き継ぐべき資産になる。
ここでAIに、過去の様子から「混乱トリガーTOP3」と「穏やかになる声かけ例」を下書きさせる。実際に使えるプロンプトはこうだ。
あなたは介護タクシーの配車担当を補助するアシスタントです。
以下のメモから、認知症対応型の送迎指示書の「心理面の段取り」だけを作成してください。
出力は3部構成:
(1) 混乱しやすい状況TOP3
(2) 各状況での穏やかになる声かけ例(1文ずつ)
(3) 乗車前→乗車中→降車後の声かけ順(箇条書き)
※医療的判断や診断は書かないこと。あくまで接遇の段取りに限定。
【メモ】
・天気の話から入ると落ち着くことが多い
・急に本題に入ると不安になりやすい
・降車時に「お疲れさまでした」を忘れると不機嫌になる日がある
このプロンプトに対する出力を、従来の指示書と並べると違いがはっきりする。
従来の指示書(抜けあり):「Bさん 9:00自宅→○○病院 車椅子不要」
AIで補った指示書(after):「Bさん 9:00自宅→○○病院/車椅子不要/乗車前: 天気の話から。いきなり本題に入らない。乗車中: 病院名を繰り返さず『もうすぐ着きますよ』と安心を。降車後: 必ず『お疲れさまでした』」
代走のドライバーでも、この一行があれば声かけの順番を再現できる。
ここで注意がある。AIが書くのは「接遇の段取り」までだ。症状の評価や医療的な判断は、AIにさせてはいけない。 それは医師・看護師など有資格者の領域だ。AIの出力は必ず利用者を知る人が確認し、誤りがあれば直す。
施設に入所している利用者なら、施設側の申し送り情報と指示書をそろえておくと、声かけの一貫性がさらに高まる。施設の申し送りをAIで整える発想はこちらの記事が参考になる。
【Type B】身体介助型——AIに「車椅子・段差・介助手順」をチェックリスト化させる
Type Bで抜けやすいのは「数値」だ。乗せるときに困らないための、具体的な数字が指示書から落ちやすい。
身体介助型では、車椅子のサイズ・玄関や経路の段差・介助手順を、感覚ではなく数値で書く。 これが結論だ。
理由は、車両やスロープの対応が数値で決まるからだ。車椅子には標準サイズ(幅63cm程度)、医療用のリクライニング(幅70cm以上)、電動などがあり、車両の対応可否が変わる。段差も「ある・なし」ではなく「○cm」で書かないと、当日になってスロープが届かない事態が起きる。
AIには、メモから「機材チェックリスト」と「段差対応手順」を組み立てさせる。プロンプト例はこうだ。
介護タクシーの身体介助型・送迎指示書の「機材と手順」部分を作成してください。
以下のメモを、当日ドライバーがそのまま確認できるチェックリスト形式にしてください。
出力:
(1) 持参機材チェックリスト(□付き)
(2) 自宅→車両までの段差対応手順(順番に番号付き)
(3) 当日の最終確認ポイント
※数値は省略せず、不明な数値は「要確認」と明記すること。
【メモ】
・リクライニング車椅子(幅72cm)使用
・玄関に15cmの段差が1つ、ポーチに5cmが1つ
・本人は立位保持が短時間のみ可能
AIの出力(before→after)はこうなる。
従来(抜けあり):「Cさん 車椅子あり 段差注意」
AIで補った指示書(after):
「□リクライニング車椅子対応スロープ(幅72cm以上)/□介助ベルト
段差手順: ①玄関15cm=スロープ設置 ②ポーチ5cm=声かけして一段 ③立位保持は短時間のみ=二人介助を基本
最終確認: スロープ角度、固定ベルト2点」
「段差注意」では人によって解釈が割れる。「15cm」と書けば、誰がやっても同じ準備ができる。
念のため繰り返すが、介助手順の医学的な妥当性まではAIは保証しない。身体状況の評価や、どこまで介助してよいかの判断は、ケアマネジャーや医療職と確認する。 AIは「数値の抜けを防ぐ係」に徹させるのが安全だ。
【Type C】通院透析型——AIに「体調フラグ・時刻厳守・連絡先順位」を先出しさせる
Type Cで抜けやすいのは「降ろした後」と「もしものとき」の情報だ。
透析通院型の指示書には、透析後の体調変化のパターン、時刻厳守のルール、緊急連絡先の優先順位を、先に書いておく。 これが打ち手だ。
理由は透析という治療の特性にある。透析はおおむね週3回(月水金、または火木土)の定期通院が基本で、透析後の2〜4時間は倦怠感や血圧低下が起きやすいとされる。つまり「帰りの送迎」こそ体調が不安定になりやすい。さらに開始時刻が決まっているため、行きは時刻厳守が絶対だ。
なお、通院介助が介護保険サービスとどう接続するかは制度上の論点があり、厚生労働省も院内介助の取り扱いを示している(厚生労働省「訪問介護における院内介助の取扱いについて」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000063e0-img/2r985200000063fi.pdf)。送迎の範囲と介助の範囲を取り違えないよう、ここも人が確認すべき領域だ。
AIには、透析スケジュールから体調フラグと連絡順位を先出しさせる。
介護タクシーの通院透析型・送迎指示書を作成してください。
以下のメモから、ドライバーが「帰り」に注意すべき体調フラグと、緊急時の連絡順位を先出ししてください。
出力:
(1) 行き: 時刻厳守ルール
(2) 帰り: 透析後に出やすい体調サインと、その場での対応の目安
(3) 緊急連絡先の優先順位(1→2→3)
※医療的な処置や判断は書かない。連絡と見守りの段取りに限定。
【メモ】
・週3回(月水金)、透析開始9:00厳守
・透析後はふらつき・血圧低下が出やすい
・家族(長女)→かかりつけ→事業所の順で連絡
従来(抜けあり):「Aさん 月水金 透析送迎」
AIで補った指示書(after):
「行き: 9:00開始厳守=8:30お迎え。遅延見込みは即連絡。
帰り: ふらつき・顔色に注意。立ち上がりはゆっくり。異変時はその場で停車し声かけ。
緊急連絡: ①長女〔A様の番号は指示書に伏せ、別管理〕→②かかりつけ→③事業所」
ここでも医療判断はAIの仕事ではない。急変時に何をするかの最終判断は、家族や医療機関の指示に従う。 AIは「連絡の順番を切らさない」ための備えにすぎない。
在宅で介護を受けている利用者なら、ご家庭の介護記録と送迎情報を連携させると、体調の変化に気づきやすくなる。在宅介護記録をAIで整える方法はこの記事にまとめている。
利用者の医療・個人情報をAIと使うときのルール——入れていい情報・入れてはいけない情報
ここまで読んで「便利そうだ」と思った方に、必ず押さえてほしい線引きがある。介護タクシーが扱うのは、病名・服薬・認知機能・家族構成といった、極めてデリケートな情報だからだ。
下の図が、AIに「入れていい情報」と「入れてはいけない情報」の線引きだ。

結論はこうだ。利用者の氏名・住所・電話番号・診断名など、個人を特定できる情報はAIに入れない。 AIに渡すのは「声かけの工夫」「段差の数値」「透析後の一般的な注意」といった、個人を特定しない段取りの情報にとどめる。氏名はメモの段階から「A様」「長女」のように伏せ、番号などは別管理にする。
これは現場ルールであると同時に、公的な注意喚起にもとづく。個人情報保護委員会は、要配慮個人情報をAIサービスに入力することのリスクに注意を促している(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/)。
また、AIを業務に使うときの基本姿勢として、透明性・公正性・個人情報への配慮が公的指針として示されている(総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」掲載ページ https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ai_network/02ryutsu20_04000019.html)。配車担当者がAIの出力を最後に確認すべき理由も、ここにある。
最後に、この記事を通じての約束ごとを3点でまとめる。
- AIは医療判断をしない。 症状の評価・処置・急変時の最終判断は、医師・看護師・家族・医療機関へ。
- 専門領域は有資格者へ。 介助の可否や介護保険の範囲は、ケアマネジャーや専門職に確認する。
- 個人情報・固有名はAIに入れない。 氏名・住所・番号・診断名は伏せ、段取り情報だけを渡す。
「全員同じ指示書」から「3タイプ別設計」へ——ドライバーの「えっ」をなくすために
この記事で伝えたかったのは、効率の話ではない。
配車指示書の抜けは、利用者のタイプによって起きる場所が違う。認知症の方では声かけの順番、身体介助の方では段差の数値、透析の方では帰りの体調フラグ。だから、全員に同じ書式を使うのをやめ、3タイプに分岐させて、それぞれの抜けやすい情報をAIに先回りさせる。これが今日の打ち手だった。
仕組みづくりは、最初から完璧を目指さなくていい。まずは利用者を3タイプに分け、いちばん不安なタイプの指示書から、AIに段取りを下書きさせてみる。出力を自分の言葉で直しながら、自社の指示書に育てていく。
実際に手を動かしながらAI活用を深めたい配車担当者には、DMM 生成AI CAMPのような実践型の学習も選択肢になる。月額制で体系的に学べるので、配車業務をAIで変えていきたい事業者の土台づくりに向く。受講は各自の状況に合わせて検討してほしい。
そして忘れないでほしい。タイプ別に指示書を設計する本当の目的は、時間の短縮ではない。Bさんを、もう泣かせないこと。 一人ひとりの利用者に、ドライバーが安心して向き合えること。そのための仕組みづくりだ。
3タイプに分けた指示書は、結果として「担当者が休んでも、代走でも、同じケアが届く」体制になる。それは利用者にとっても、ドライバーにとっても、配車担当者にとっても、静かな安心になる。
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