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令和6年、外国人技能実習生や特定技能の外国人を雇う事業場に労働基準監督署が立ち入ったところ、11,355機関のうち73.2%にあたる8,310機関で労働基準関係法令の違反が見つかりました。違反の内訳で最も多かったのは「機械の安全基準」、全体の25.0%です(厚生労働省「技能実習生等を使用する事業場に対する令和6年の監督指導・送検等の状況」)。

この数字を、私は「制度の問題」としてではなく「現場の問題」として読みました。プレスや切削の機械を、安全カバーのロックを確かめないまま動かしてしまう。バリが残った材料をそのまま加工してしまう。その背景には、安全のルールが、それを守るべき本人の言葉で届いていないという、ごく具体的な穴があります。

日本語で完璧な作業手順書を作っても、それを読む実習生が漢字と専門用語の壁の前で止まっていれば、ルールは「ない」のと同じです。この記事は、その壁をAIの2つのエージェントで埋める話をします。翻訳コストを下げる効率化の話ではありません。安全文言を、実習生の母国語で、正確に、確実に届けるための設計です。

日本語の作業手順書が外国人技能実習生に届かず、機械の前で戸惑う現場の図

「安全文言が届かない」は、優しさの問題ではなく構造の問題

現場でよく聞くのは「ゆっくり、はっきり話せば伝わる」という声です。しかし作業手順書に書かれた日本語は、会話の日本語とまったく別物です。

たとえば「治具セット後、必ずカバーロックを確認し、インターロック動作を確かめてからスイッチを押してください」。この一文には、製造現場の専門語(治具・インターロック)、受け身に近い硬い言い回し、そして複数の条件が一つの文に詰め込まれています。日本語を母語とする新人でも、初見で正確に理解するのは難しい文です。

国の指針も、この問題を正面から扱っています。文化庁と出入国在留管理庁が共同で作った「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」は、外国人が暮らし・働く場面で、一文を短く区切る、専門用語を言いかえる、二重否定を避けるといった書き換えの考え方を示しています。さらに厚生労働省「外国人労働者の安全衛生管理」も、安全衛生教育を労働者が理解できる方法で行うこと、多言語での安全指示の必要性を求めています。

つまり「安全文言が届かない」のは、実習生の理解力の問題でも、指導員の熱意の問題でもありません。もとの文が、伝わる形になっていないという構造の問題です。ここはAIの得意分野です。

なお、社内に散らばったベテランの判断やコツを言葉にして残す取り組みと、その言葉を実習生に届ける多言語化は、現場DXの表と裏の関係にあります。前者については製造業のベテランの暗黙知をAIで形式知化する記事も参考になります。

Before→After現物:安全文言がAIを通ると、こう変わる

ここがこの記事の中心です。実際のAIの出力をそのまま載せます。きれいに整えた完成例ではなく、現場の素材を入れたときに返ってくる「生」の出力です。

Before:現場の作業手順書(よくある日本語)

治具セット後、必ずカバーロックを確認し、インターロック動作を
確かめてからスイッチを押してください。
バリが残留している場合はそのまま加工しないこと。

After:平易化エージェントが返した出力(やさしい日本語)

【目的:機械を動かす前に、安全を確認するため】

1. 部品を止める道具(治具)をセットします。
2. カバーのロックを確かめます。「カチッ」と音がすれば OK です。
3. ロックが外れないか、もう一度押して確かめます。
4. 金属の角に出るささくれ(バリ)がないか確認します。
   バリがある場合は →【必ず止まってください!リーダーを呼んでください!】
5. ぜんぶ OK なら、スイッチを押します。

一文が短く区切られ、専門語にはやさしい言いかえが添えられました。そして危険につながる「バリがあったら加工しない」という一点が、箇条書きの中で太字と強い呼びかけに変わっています。安全文言を埋もれさせず、目立たせる。これが平易化の肝です。

After2:多言語翻訳エージェントが返した出力(ベトナム語ドラフト)

Tiếng Việt:
1. Lắp đặt đồ gá (治具) vào máy.
2. Kiểm tra khóa nắp bảo vệ. Nghe tiếng "カチッ" (tiếng click) là được.
3. Nhấn thêm một lần để chắc chắn khóa không bị mở.
4. Kiểm tra xem có ba via (バリ) — mảnh kim loại sắc cạnh — không.
   Nếu có ba via →【Bắt buộc dừng lại!Gọi trưởng nhóm!】
5. Tất cả OK → Bật công tắc.

※ Đây là bản thảo do AI tạo ra. Trước khi dán lên bảng làm việc,
  vui lòng nhờ người biết tiếng Việt kiểm tra lại.

注目してほしいのは「Bắt buộc(必ず・義務)」という強い語が、危険箇所にきちんと当てられている点です。そして末尾には、AIが自分で「これはAIが作ったドラフトです。掲示する前に、ベトナム語がわかる人に確認してもらってください」という一文を付けています。これは偶然ではなく、後で示すプロンプトで意図的に書かせている安全装置です。

Before の日本語手順書がやさしい日本語とベトナム語の安全文言に変換される中核装置の流れ図

そもそも、もとの日本語手順書があいまいだと、平易化も翻訳も精度が落ちます。日本語の手順書そのものを正しく作るところは作業手順書をAIで作る記事にまとめています。多言語化はその「次の工程」だと考えてください。

安全文言特化プロンプト1:平易化エージェント

1つ目のエージェントは、現場の日本語をやさしい日本語へ書き換える担当です。ふつうの「わかりやすくして」では、肝心の安全文言まで丸められてしまうことがあります。そこで安全に関わる一文だけは弱めないというルールを追加します。

あなたは製造現場の安全マニュアルを「やさしい日本語」に書き換える専門家です。
以下のルールに従って、入力された作業手順を書き換えてください。

【基本ルール】
1. 一文は短く。1つの文に1つの動作だけ書く。
2. 専門用語は残しつつ、すぐ後ろに(やさしい言いかえ)を入れる。
3. 受け身・二重否定を使わない。「〜してください」の形にする。
4. 順番がある作業は番号付きの箇条書きにする。
5. 「いつ・何を・どうする」がわかるように動作を具体化する。
6. むずかしい漢字には、現場で使う読みを添える。
7. 各手順の冒頭に【目的:〜のため】を一行で書く。
8. 文末に、もとの手順から削った情報がないか自己チェックして報告する。

【安全に関する追加ルール(最優先)】
・危険・禁止・緊急に関わる文は、絶対に省略・要約しない。
・危険箇所は【 】と「!」で強調し、行動(止まる・人を呼ぶ)まで書く。
・あいまいな箇所があれば、勝手に補わず「要確認」と明記する。

【入力】
(ここに現場の日本語手順書を貼る。※実習生の氏名・健康情報は入れない)

ポイントは「8. 削った情報がないか自己チェック」と「安全に関する追加ルール」です。AIは要約が得意なぶん、安全文言まで短くしてしまう傾向があります。明示的に「安全文言は削るな・強調しろ」と縛ることで、Beforeで見た太字の呼びかけが生まれます。

安全文言特化プロンプト2:多言語翻訳エージェント

2つ目は、やさしい日本語を母国語へ訳す担当です。ここで大切なのは、「必ず」「禁止」「危険」に当たる強い語を、言語ごとに正しく選ぶことです。日常会話の「〜してね」では、安全文言の重みが消えてしまいます。

あなたは製造現場の安全マニュアルを多言語に翻訳する専門家です。
入力された「やさしい日本語」を、指定された言語に翻訳してください。

【翻訳ルール】
1. 危険・禁止・義務を示す文は、その言語で最も強い「必ず/禁止」
   の表現を使う(例:ベトナム語 Bắt buộc / Cấm)。
2. 専門用語は、もとの日本語(漢字)をカッコで併記する。
   (現場の掲示やベテランとの会話で照合できるようにするため)
3. 番号・記号・強調の【 】「!」は、もとの構造を崩さず残す。
4. 翻訳できない・自信がない語は、訳さず「要・母国語話者確認」と記す。
5. 出力の最後に必ず、その言語で次の一文を付ける:
   「これはAIが作ったドラフトです。掲示する前に、その言語が
    わかる人に確認してもらってください。」

【翻訳先の言語】
ベトナム語 / インドネシア語 / タガログ語(必要な言語だけ指定)

【入力】
(プロンプト1で作ったやさしい日本語を貼る)

「4. 自信がない語は訳さず要確認と記す」と「5. ドラフト注記を必ず付ける」が、安全のための二重の歯止めです。AIは知らない語でも、もっともらしい訳を作ってしまうことがあります。だからこそ「わからないときは、わからないと書け」と先に命じておきます。この2つのエージェントを使えば、指導員が翻訳会社を待たずに、その日のうちに安全文言のたたき台を用意できます。

育成就労制度への移行で、今こそ多言語マニュアルを整える理由

技能実習制度は、新しい「育成就労制度」へと移っていきます。出入国在留管理庁によれば、改正法は2024年に公布され、2027年4月の施行が予定されています(最新の施行日や運用は出入国在留管理庁の公式情報で必ず確認してください)。

制度が変わっても、変わらないことがあります。それは外国人が現場で安全に働けるよう、わかる言葉で安全を伝える責任です。むしろ受け入れが広がるほど、言語の壁は大きくなります。冒頭で見た73.2%という違反率は、制度の名前が変わっただけでは下がりません。下がるのは、現場で安全文言が母国語で届くようになったときです。

多言語対応のマニュアルは、一度作れば次の実習生・特定技能の人にも使えます。制度の移行期である今こそ、慌てて翻訳を外注するのではなく、自分たちで更新し続けられる仕組みを持っておく価値があります。AIを使った内製化スキルを基礎から学ぶなら、Udemyの生成AI・ChatGPT活用講座のような体系的な教材で、プロンプト設計の型を一度通しておくと、現場の素材に合わせて応用が利くようになります。

AI翻訳を現場に出す前の「人確認」プロトコル

ここは省略できない節です。AIの翻訳は、そのまま掲示してはいけません。 必ず人の確認を通します。安全文言は特に丁寧に扱ってください。

確認の順番を、現場の手順として固定しておくことをおすすめします。

  1. やさしい日本語を、まず日本人の指導員が確認する。もとの安全文言が弱まっていないか、削られていないかを見ます。
  2. 翻訳は、その言語がわかる人に確認してもらう。社内の先輩実習生、登録支援機関、専門の翻訳者など。特に「必ず」「禁止」に当たる語が正しいかを重点的に。
  3. 掲示前に、実際にその作業をしながら読み合わせる。文だけでなく、機械の前で動作と照らして確認します。

そして、AIに入れてはいけない情報があります。作業手順書に実習生の氏名・在留情報・健康状態などの個人情報が含まれる場合、それを生成AIに入力するのは避けてください。個人情報保護委員会も生成AIサービスの利用に関する注意喚起で、入力したデータの取り扱いに注意するよう求めています。AIに渡すのは、あくまで作業の手順という「一般化された情報」だけにします。

労働安全衛生は、人の命と健康に直結する分野です。最終的な安全教育の内容・掲示物の妥当性は、安全衛生に責任を持つ有資格の担当者や、社会保険労務士などの専門家の確認のもとで決めてください。AIは、その人たちの作業を速くする下書き役にとどめます。

なお、多言語で安全を伝えられる人材そのものが不足している現場も多いはずです。母国語と日本語の両方がわかる人を採用に組み込みたい場合は、製造・工場の求人に強いリクナビNEXTのようなサービスで、多言語対応できる人材の確保を並行して進めると、AIと人の二段構えがより確実になります。

まとめ:言語の壁をなくすことが、安全管理の土台になる

令和6年の監督指導で技能実習機関の73.2%に法令違反が見つかり、その第1位は機械の安全基準でした。この数字の根っこには、「安全のルールが、守るべき本人の言葉で届いていない」という構造があります。

この記事で示したのは、2つのAIエージェントです。

  • 平易化エージェント:現場の硬い日本語を、安全文言を弱めずにやさしい日本語へ。
  • 多言語翻訳エージェント:「必ず」「禁止」の強い語を正しく当て、わからない語は「要確認」と正直に残す。

そして、どちらの出力も人の確認を通してから掲示すること、個人情報はAIに入れないことを、現場の手順として固定する。これが安全管理の土台になります。

製造業全体のAI活用を体系的に見渡したい方は、製造業AI活用の完全ガイドもあわせてご覧ください。まずは自分の現場で一番危ない作業の手順書を1枚、平易化エージェントに通してみるところから始めてみてください。

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