部下の目標『がんばる』を上司がAIで数値化する添削術【2026】
9月最終週の金曜、午後4時。目標承認の期限は、今日中です。人事システムには、部下5人分の下期目標が並んでいます。そのうち3人分が、「品質意識を高める」「不良削減をがんばる」「5Sを徹底する」。差し戻しボタンの上に、カーソルを置いたまま手が止まります。どこがどう足りないのか、言葉が出てきません。隣の課は、もう承認を終えたようです。
この記事は、そんな場面にいる管理職のための添削術です。
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差し戻せないのは、あなたの指導力不足ではありません
結論から書きます。部下の曖昧な目標文を差し戻せないのは、あなたに「物差し」がないからです。物差しさえあれば、AIと「3つの質問」で、目標は数値の入った文章に変わります。
なぜ物差しが要るのでしょうか。「品質意識を高める」を前にして手が止まるのは、どこが足りないかを自分の主観でしか言えないからです。主観で「もっと具体的に」と返すと、部下は「どう直せばいいのか」がわからず、あなたも同じ迷いを繰り返します。
そこで本記事では、公的機関が示す4つの要素を物差しにします。この物差しで目標文を診断し、欠けた部分を部下自身に埋めてもらう質問を、AIに作らせます。上司が勝手に書き直すのではありません。目標は、あくまで本人のものだからです。
なお、この記事は「部下が提出してきた目標文を上司が添削する」視点で書いています。もしあなた自身が期初にゼロから自分の目標を立てる立場なら、ChatGPTで目標設定シート(MBO)を作る方法が向いています。前期の振り返りから自分の下期目標を組み直したい方は、前期振り返りから下期目標を変換する方法を先にご覧ください。この記事は、部下が書いたものを直す側のための記事です。
なぜ部下の目標は「がんばる」で止まるのか
まず前提を共有します。部下が「がんばる」「徹底する」と書くのは、やる気がないからでも、手を抜いているからでもありません。
目標を数値と期限に落とす作業は、訓練しないと難しい技術です。厚生労働省の令和6年度能力開発基本調査 結果の概要(図51・複数回答)を見てみます。職業能力の評価を「人事考課の判断基準」として使う事業所は85.8%と最も多くなっています。一方、「労働者に必要な能力開発の目標」として活用する事業所は34.9%にとどまります。
この数字が示すのは、目標や評価の仕組みが「査定のため」に使われる場面が中心だということです。「本人の成長を導く目標づくり」として機能する場面は、まだ一般的ではありません。
つまり多くの職場で、部下は「良い目標文の書き方」を体系的に教わる機会がないまま、目標欄を埋めています。「がんばる」しか出てこないのは、当然とも言えます。だからこそ、上司の側が明確な物差しを持ち、書き方そのものを一緒に整える価値があります。責める前に、直し方を渡すのが先です。
添削の物差しは、上司の好みではなく「4つの要素」
では、どんな物差しを使えばよいのでしょうか。ここで役立つのが、内閣人事局・人事院が示す目標設定の考え方です。
内閣人事局・人事院の人事評価ガイド《被評価者の手続編》(PDF)(同ガイドの設定のポイントより)には、目標の考え方が示されています。そこでは、目標は「できる限り具体的(何を、いつまでに、どの水準まで、どのように(方法・手段))なもの」にするよう書かれています。この資料は国家公務員向けですが、目標の具体性という考え方は民間の職場にも参考になります。さらに、目標が「事後に目標の達成の成否を判断できるようになっているか」を確認するチェックリストも載っています。
この4つの要素を、部下の目標文を測る物差しにします。
- 何を:対象は何か(どの業務・どの指標か)
- いつまでに:期限はいつか
- どの水準まで:達成できたと言える基準はどこか
- どのように:どんな方法・手段で進めるか
「SMART」という民間で広く知られる考え方にも近いですが、ここでは公的機関が示したこの4要素を物差しとして使います。
物差しの良いところは、上司の主観が消えることです。「もっと頑張って」ではなく、「この目標には『いつまでに』と『どの水準まで』が入っていないね」と言えます。基準が上司の好みではなく公的な考え方にあるので、部下も納得しやすくなります。「品質意識を高める」を4要素で数えると、実は4つとも入っていない、と一目でわかります。

AIで作るのは「修正文」ではなく、部下に渡す「3つの質問」
ここが本記事の核心です。AIに目標文を渡すとき、多くの人は「良い目標に書き直して」と頼みます。しかし、それはおすすめしません。
理由は2つあります。1つ目は、上司が書き直した目標は、もう部下のものではなくなるからです。押し付けられた目標に、人は本気になれません。2つ目は、AIに「良し悪し」を判定させると、評価をAIに委ねることになり、これは避けるべきだからです。
そこで、AIには修正文ではなく「部下に渡す3つの質問」を作らせます。手順はこうです。曖昧な目標文をAIに渡し、次の3点だけを出力させます。
- 4要素のうち、欠けている要素の特定
- その要素を、部下自身の言葉で埋めるための質問
- その質問を、やわらかく伝える声かけ例
次のプロンプトを使ってください。
あなたは目標設定の添削アシスタントです。
これから、ある目標文を渡します。次の4つの要素が
その文に入っているか、一つずつ確認してください。
・何を(対象)
・いつまでに(期限)
・どの水準まで(達成の基準)
・どのように(方法・手段)
そのうえで、以下の3点だけを出力してください。
1. 4要素のうち、文に入っていない要素はどれか
2. 足りない要素を、書いた本人が自分の言葉で
埋められるような質問を3つ
3. その質問を本人にやわらかく伝えるための声かけ例
守ってほしいこと:
・目標の良し悪しや評価は判定しないでください
・目標文を書き直した「完成版」は作らないでください
・氏名や評価の履歴など個人情報は私も入力しません
目標文:「(ここに目標文だけを貼る)」
このプロンプトの狙いは、AIを「代筆者」ではなく「質問の設計係」にすることです。AIが作った質問を、上司が自分の言葉に整えて部下に渡します。部下はその質問に自分で答え、目標を自分の手で書き直します。こうすれば、目標は最後まで本人のものであり続けます。
やってみる:「品質意識を高める」を添削する
実際の流れを、架空の例で見てみます(実在の部下の目標ではありません)。
Before(部下が提出した目標文)
品質意識を高める
4要素で診断
4つとも入っていません。「何を」も「いつまでに」も「どの水準まで」も「どのように」も、この一文からは読み取れません。
AIが出した「3つの質問」(上司が部下に渡す)
- 「品質意識」は、具体的にどの工程の、どんな数字に表れますか(何を・どの水準まで)
- それは、いつの時点で「高まった」と言えますか(いつまでに)
- そのために、毎日や毎週、どんな行動を続けますか(どのように)
声かけ例(AIが用意し、上司が整える)
方向性はいいと思う。あとは、達成できたと二人で確認できるように、もう少しだけ具体にしよう。この3つを埋めてみてくれる。
対話のあと、本人が書き直した目標文(After)
担当ラインの工程内不良率を、下期末(3月末)までに前年同期の2.0%から1.5%以下に下げる。そのために毎朝の始業前点検で異常の兆候を記録し、週次で上位3要因を見直す。
大事なのは、Afterの文章を書いたのが上司ではなく部下本人だという点です。上司がやったのは、物差しで足りない要素を見つけ、AIに質問を作らせ、それを本人に渡しただけです。差し戻しが、押し付けではなく対話になりました。

数値化しにくい業務の目標は、どう扱うか
「うちの部下は総務や調整業務で、そもそも数字で測れない」という声もあります。ここは丁寧に考えたいところです。
結論は、無理にすべてを数字にしなくてよい、です。4要素の物差しは「必ず数値を入れろ」という意味ではありません。大事なのは「達成できたかを、あとで二人で判断できる状態」にすることです。
数値化しにくい業務では、「どの水準まで」を数字以外の基準で表します。たとえば「関係部署からの依頼に、原則1営業日以内に一次返信する」なら、件数ではなく「期限と対応の型」で水準が決まります。「新しい申請フローの手順書を9月末までに作り、関係3部署のレビューを受けて確定する」なら、成果物と完了の状態で水準がわかります。
このときも、先ほどのプロンプトはそのまま使えます。AIには「数字が難しい場合は、達成を確認できる状態や成果物で水準を表す質問にしてください」と一文足すだけです。「がんばる」を「何をもって達成とみなすか」に置き換えられれば、数字がなくても物差しは機能します。
差し戻しを「対話」に変える伝え方
添削の材料がそろっても、伝え方を誤ると台無しになります。「ここがダメ」と赤ペンで返せば、部下は身構えます。
伝え方の芯は、「あなたの目標が悪い」ではなく「4要素のここが埋まると、この目標はもっと強くなる」という向きです。欠けているのは能力ではなく、要素です。物差しを一緒に見ながら、「この2つを足すと、期末に二人で達成を確認できるね」と話します。
そしてもう一つ、忘れてはいけない原則があります。最後に判断するのは、AIではなく人間です。経済産業省・総務省のAI事業者ガイドライン(第1.2版・PDF)(公平性の項より)は、AIの出力の扱いについて述べています。そこでは「AIに単独で判断させるだけでなく、適切なタイミングで人間の判断を介在させる利用を検討する」とされています。
これは元々、AIの出力を評価に使うときの公平性の話です。しかし、目標の添削でも考え方は同じです。AIが出した質問や声かけをそのまま流すのではなく、上司が自分の言葉に直し、部下本人と対話して目標を確定させます。目標を決めるのは、AIでも上司の独断でもなく、上司と本人の二人です。
AIに渡してはいけないもの、決めさせてはいけないこと
便利さの手前で、必ず引いておく線があります。ここを曖昧にすると、部下の信頼を失いかねません。
第一に、部下の氏名や評価履歴を、そのままAIに入力しないことです。個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用に関する注意喚起(PDF)を公表しています。そこでは、生成AIに個人情報を含むプロンプトを入力する際、利用目的の範囲内かを十分に確認するよう求めています。入力した内容が学習に使われ、思わぬ形で出力されるリスクもあるとされています。目標シートには氏名や人事考課に関わる情報が含まれます。AIに渡すのは「目標文の表現だけ」にし、誰の目標かがわかる情報は外します。プロンプトの中でも「個人情報は入力しない」と自分に宣言しておくと安全です。
第二に、目標の合否や評価そのものを、AIに判定させないことです。AIは表現の具体性を点検する道具であって、この目標を承認するか、評価にどう反映するかを決める立場ではありません。
第三に、目標の最終決定は、上司と本人が行うことです。AIの提案は、あくまで対話のたたき台です。この3つの線を守るかぎり、AIは強い味方になります。
添削の目を、自分以外にも渡せるように
ここまでで、目の前の目標シートは片づきます。最後に、少し先のことも考えておきます。
今回、目標文の良し悪しを最終的に判断したのは、AIではなく、あなた自身の経験と勘でした。この「良い目標文とは何か」を見抜く判断軸は、一度理論として押さえておく価値があります。基準が身につくと、AIの提案を鵜呑みにせず、自分の言葉で「なぜこう直すのか」を部下に説明できます。
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目標管理や評価制度の考え方をまとまった形で学びたいなら、動画講座を一つ選んで、半期の合間に基礎を固めておくのも一つの方法です。自分の添削の目そのものを鍛えておくと、次に似た下書きを見たときの迷いが減ります。
もう一つ、気になることがあります。この添削の基準が、自分の頭の中にしかない、という状態です。来期あなたが別の部署に異動したら、あるいは同じように部下の目標を見る後輩ができたら、同じ物差しで判断してもらえるでしょうか。
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DMM 生成AI CAMPは、AIの使い方そのものを日常業務の型として学べる環境です。今回作った添削のチェック観点を、自分だけのものにせず、誰かに渡せる形にしておきたい方に向いています。まずは無料セミナーで、学習の進め方や扱う範囲を確認できます(料金やプランは公式でご確認ください)。
なお、学習の効果には個人差があります。「これを受ければ必ず添削が完璧になる」といった性質のものではありません。
まとめ:まず1枚だけ開いて、要素をいくつあるか数える
部下の「がんばる」を差し戻せなかったのは、指導力の問題ではなく、物差しがなかったからでした。
やることは、シンプルです。まず、部下の目標を1枚だけ開いてください。そして「何を・いつまでに・どの水準まで・どのように」の4要素が、いくつ入っているかを数えます。足りない要素が見つかったら、この記事のプロンプトでAIに「3つの質問」を作らせ、あなたの言葉に整えて本人に渡します。目標を書き直すのは、上司ではなく本人です。
添削して確定した目標は、期末に評価する場面へつながります。その工程はChatGPTで部下の評価コメント・フィードバックを書く方法にまとめてあります。また、部下の側が期末の自己評価を書く場面には、ChatGPTで自己評価を書く方法(部下・本人向け)があります。チームに紹介すれば、評価シーズンの両側が軽くなります。差し戻しが対話に変われば、目標設定の期は、あなたにとっても部下にとっても、少し楽になるはずです。
今日の帰り際に、まず1枚。要素の数を数えるところから始めてみてください。
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