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7月第3週、夜10時すぎ。35名分の所見をやっと書き終えた。その翌週の月曜日、学年主任から声をかけられる。「保護者からメールが来た。うちの子と隣のクラスの子の所見が、文章がそっくりだって。先生、AIで書きましたか」。
血の気が引いた。たしかにAIに下書きを頼んだ。でも、悪気はなかった。少しでも早く帰りたかっただけだ。問題は「AIを使ったこと」そのものではない。使う前に確認しておくべきことを、確認しないまま使ってしまったことにある。
この記事は、所見にAIを取り入れたい先生に向けて「プロンプトの書き方」を教えるものではありません。それより前の段階、AIに触れる前に確認しておく10項目のチェックリストを中心にまとめました。確認の順番を間違えなければ、保護者の信頼を守りながら、学期末の深夜作業を軽くできます。
所見でAIを使うと起きる「2種類の事故」
結論から言うと、所見でのAIトラブルは大きく2種類に分かれます。個人情報の事故と、信頼の事故です。この2つを切り分けて理解しておくと、どこで止まるべきかが見えてきます。
1つ目は個人情報の事故です。児童の氏名・成績・家庭の事情・健康状態を、そのままAIに打ち込んでしまうケースです。これらは個人情報保護法でとくに慎重な扱いが求められる情報にあたります。さらに公立学校の教員は、地方公務員法で守秘義務を負っています。「便利だから」で入力してよい情報ではありません。
2つ目は信頼の事故です。冒頭の場面がまさにこれです。AIの文体をそのまま使うと、35名分の所見が似た言い回しになりがちです。保護者は「ちゃんと我が子を見てくれているのか」を所見から読み取ります。文章が金太郎飴になれば、観察の質を疑われてしまいます。
教員の長時間勤務は、いまも続く現実です。文部科学省の教員勤務実態調査(令和4年度)でも、在校時間は減少傾向にあるものの、なお長時間勤務が続いていると報告されています。所見や書類作業はその一因です。だからこそAIに頼りたくなる。その気持ちは自然なものです。ただ、急ぐ前に「2種類の事故」を避ける準備をする。これが出発点になります。
AIと通知表所見の「10の確認チェックリスト」
ここが本記事の中心です。所見にAIを使う前に確認したい10項目を、3つの領域に分けて一覧にしました。まずこの表を1枚、手元に置いてください。すべてに「はい」が付いてから、はじめてAIを開きます。

領域A:個人情報を守る(4項目)
- [ ] 1. 児童の氏名を入力していないか——A児・B児などの記号に置き換える。
- [ ] 2. 成績・点数・順位を入力していないか——数値は伏せ、「計算の手順を粘り強く確認していた」など活動の様子だけを渡す。
- [ ] 3. 家庭事情・健康状態を入力していないか——とくに慎重に扱うべき情報。AIには入れない。
- [ ] 4. 学校名・学年・教科名を抽象化したか——「本校3年2組」ではなく「ある学級」と書く。
この4項目の根拠が、個人情報保護委員会の生成AIサービスの利用に関する注意喚起(令和5年6月2日)です。生成AIに個人情報を入力する際は、慎重な取り扱いが必要だと示されています。児童の個人情報を入れない運用は、この注意喚起に沿った当然の備えです。
領域B:学校のルールを確認する(3項目)
- [ ] 5. 学校・教育委員会のAI利用ポリシーを確認したか——ある場合は最優先で従う。
- [ ] 6. 校務でのAI利用が認められる範囲を把握したか——下書き補助は可でも、評価の確定は不可など。
- [ ] 7. 同僚・管理職と認識をそろえたか——一人で判断せず、学年・学校で歩調を合わせる。
領域C:最終判断は人が握る(3項目)
- [ ] 8. AIの文章をそのまま使わず、自分の言葉に直すと決めたか
- [ ] 9. 一人ひとりの具体的な事実を、自分の観察から付け足すと決めたか
- [ ] 10. 完成した所見を、必ず教員自身が読み直して責任を持つと決めたか
10項目すべてに「はい」が付くと、AIは「所見を完成させる道具」ではなく「下書きを手伝う道具」に位置づけられます。この線引きが、保護者の信頼と教員の責任を同時に守ります。
なお、ここに書いた手順は一般的な考え方です。最終的な判断や専門的な対応は、学校の管理職や教育委員会など、責任ある立場の指示にしたがってください。
チェックリストを満たしてから使う——観察メモからの下書き
10項目を確認したら、はじめてAIに下書きを頼みます。ここでも主役は先生の観察です。AIは、断片的なメモを所見の文体に整える係にすぎません。
下の図は、入力前後のイメージです。左が日々ためた仮名化済みの観察メモ、右がAIに整えてもらった下書きです。あくまで「たたき台」であり、最後は先生が自分の言葉に直します。

実際に使えるプロンプトは、次の1本に絞り込みました。あれこれ並べるより、1本を丁寧に使うほうが安全です。AIで動作確認をしています(執筆時点)。
あなたは小学校の所見作成を手伝うアシスタントです。
以下のメモをもとに、80〜120字の所見の下書きを作ってください。
条件:
- 個人を特定する情報(氏名・成績の数値・家庭事情)は含めない
- 観察された行動の事実をもとに、前向きな表現でまとめる
- 決めつけや誇張はせず、保護者が読んで安心できる落ち着いた文体にする
- 文末は「〜しています」「〜が見られました」など事実ベースにする
【メモ】
A児:係活動で進んで声かけ。音読を毎日粘り強く練習していた。
出てきた下書きは、必ず先生が読み直し、その子だけのエピソードを一つ加えてください。「運動会の応援団長を最後までやり切った」など、観察した事実が一文入るだけで、所見はその子のものになります。AIには、ここまでの仕上げはできません。
校務での週報・月報の効率化に関心があれば、週次・月次報告書をAIで整える方法も校務分掌の場面で参考になります。
所見と同じく「事実を記録することが先生を守る」場面が、保護者対応です。電話や面談の記録の残し方は、中学校の保護者対応の記録をAIで整える方法で詳しく扱っています。
文部科学省・個情委が示す「教育現場のAI活用」の考え方
ここまでの確認は、思いつきのルールではありません。国の方針とそろっています。根拠を知っておくと、保護者や同僚に説明するときにも自信を持てます。
文部科学省は、学校現場での生成AIの利用について、考え方や事例を集めたポータルを公開しています。学校現場における生成AIの利用では、「人間中心の利活用」を基本に据えています。AIに任せきりにせず、人が中心に判断する。チェックリストの領域Cと同じ発想です。
さらに、初等中等教育段階のガイドライン(令和6年12月のVer.2.0)では、校務でのAI活用にふれつつ、最終判断は教師が行うことが明記されています。評価そのものをAIが行うのではなく、人が責任を持つという線引きです。所見は児童の評価に関わる文書ですから、この線引きはとくに重く受け止めたいところです。
そして、AIに頼りたくなる背景には働き方の問題があります。文部科学省は学校における働き方改革を進め、業務の精選や効率化を掲げています。所見や保護者対応の文書づくりも、見直しの対象に位置づけられています。負担を減らす方向は国も後押ししている。だからこそ、安全な使い方で進めたいのです。
学期末の深夜作業を生まない——「日々30秒」の観察メモ
AIを安全に使えるようになっても、肝心の材料がなければ所見は書けません。深夜作業の本当の原因は、プロンプトの巧拙ではなく「観察の蓄積がないまま、学期末にゼロから思い出すこと」にあります。
そこで提案したいのが、日々30秒の観察メモです。帰りの会のあと、気づいた児童だけでよいので、仮名で一行残します。「A児・係活動で進んで声かけ」。これだけで十分です。週に数人ずつでも、学期末には一人あたり数行たまります。
このメモがあると、AIに渡す材料が最初からそろいます。学期末に記憶をたぐる時間がなくなり、下書きから仕上げまでが一気に短くなります。AIは、観察という土台があってはじめて力を発揮する道具です。観察を肩代わりはしてくれません。
似た発想は、学童保育の連絡帳をAIで支える取り組みでも共通します。子どもの様子をどう記録し、どこまでAIに任せるか。教育の現場に共通する考え方として、あわせて読むと整理しやすいはずです。
また、日々の観察メモは所見だけでなく学級通信の素材にもなります。同じメモを通信づくりに活かす流れは、学級通信をAIで時短する方法をご覧ください。
よくある疑問3つ
Q1. 学校や教育委員会のAI利用ポリシーがない場合は?
ポリシーが見当たらないときは、独断で進めず、まず管理職に相談してください。確認できるまでの間は、チェックリストの個人情報4項目をとくに厳格に守る運用にします。氏名も成績も入れない、活動の様子だけを渡す。この最小限の安全策で進め、方針が示されたらそれに従います。
Q2. 同僚にも紹介したい場合は?
安全な使い方は、一人で抱えるより学年で共有したほうが事故が減ります。このチェックリストを印刷して回覧するだけでも出発点になります。体系的に学びたい同僚がいれば、DMM 生成AI CAMPのようなメンター付きの講座で基礎から学ぶ方法もあります。校務での使いどころを、根拠とセットで身につけられます。
Q3. 月の費用感は?
学習にかかる費用は、学ぶ手段によって幅があります。自分のペースで進めたい場合は、買い切り型のUdemyで気になる講座を一つ選ぶ方法が始めやすいでしょう。学期外の時間に、必要な分だけ学べます。なお効果や成果を保証するものではありません。費用や内容は各サービスの公式情報で確認してください。
まとめ:チェックリストを守ることが、保護者の信頼を守る
最後に要点を振り返ります。所見でのAIトラブルは「個人情報の事故」と「信頼の事故」の2種類です。これを避ける鍵は、プロンプトの精度ではなく使う前の10項目の確認にあります。
- 個人情報を入れない(氏名・成績・家庭事情・健康状態をAIに渡さない)
- 学校・教育委員会のルールを先に確認する
- 最終判断と読み直しは、必ず教員自身が行う
冒頭の先生のように呼び出される前に、できることがあります。それは今日、チェックリストのうちまず1項目だけ確認することです。たとえば「次に所見を書くときは、児童の氏名を一切入力しない」と決める。その小さな一歩が、保護者の信頼と、先生自身の責任を守る準備になります。
なお、所見は児童の評価に関わる大切な文書です。個人情報や固有名はAIに入れない、最終的な判断や専門的な対応は管理職・教育委員会など責任ある立場に確認する。この2点だけは、本記事を読んだあとも忘れずにいてください。
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