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土曜のランチ前。鶏もも肉が10kg、まな板の横で出番を待っています。
結局その日の来客は前週より2割少なく、2.5kg分が翌日には使えませんでした。原価でざっと2,000〜3,000円。一方その3日後の金曜は、刺身が早々に品切れし「あったら頼んだのに」というお客様を何組も逃しました。
廃棄で消える数千円と、売り逃しで消える数千円。仕込みの現場では、この2つが同じ週のなかで同時に起きています。
原因はどちらも同じ。「今日はいつもより多めに」という曖昧な指示です。本記事では、その「多め」を5つの条件×6つの食材カテゴリの早見マトリクス1枚に置き換え、AIをその表の読み手として使う方法を、実際の表とプロンプトつきで解説します。
来月から店長代行になる副店長のあなたが、今夜の営業データから「自店版マトリクス」の1行目を書き始められること。それがこの記事のゴールです。
「多めに仕込む」一言が生む二重の損失——まず数字で現実を見る
仕込み量の読み外しは、廃棄損と機会損という二重の損失を生みます。多すぎれば捨て、少なすぎれば売り逃す。どちらも利益をそのまま削ります。
これは一店舗だけの問題ではありません。環境省の食品ロスポータルサイト(事業者向け)は、飲食店で出る食品ロスを「食べ残し」と「仕込みロス(調理の過程で出る廃棄)」に整理し、仕込み段階の削減を主要な対策として位置づけています。
規模感も無視できません。環境省が公表した食品ロスの発生量の推計値では、令和5年度の食品ロス総量は約464万トン、うち事業系が約231万トンと推計されています。外食産業はその発生源の一部を占めます。
農林水産省の外食における食品ロス対策でも、飲食店での食品ロス削減に向けた好事例や支援資材(mottECO)が整理されており、外食産業全体の取り組みとして後押しされています。
つまり「仕込みロスを減らす」は、現場の利益にも社会的な課題にも直結するテーマです。問題は、その判断が今はベテラン店長の頭の中だけにあること。退店すれば一緒に消えてしまう暗黙知です。

ここで大切なのは、「多め・少なめ」をやめて「何倍にするか」を表で決めるという発想です。次の章で、その表そのものを作ります。
感覚を1枚の表に——仕込み調整マトリクス(5条件×6食材)の作り方
この記事の主役が、これから作る仕込み調整マトリクスです。店長の頭の中にある「読み」を、誰が見ても同じ結論にたどり着く1枚の表に固定します。
考え方はシンプルです。まず食材ごとの「標準仕込み量」を決め、5つの条件に応じた増減係数を掛け合わせる。これだけです。
縦軸に置く5つの条件は次のとおりです。
- 曜日(平日/金曜/土曜/日曜/祝前日)
- 天候(晴れ/曇り/雨/大雨・台風)
- 予約充足率(満席近い/標準/少ない)
- 近隣イベント(あり/なし)
- 直近の同条件の実績(来客20名以下/21〜40名/41名以上)
横軸に置く6つの食材カテゴリは次のとおりです。
- 肉類(鶏・豚・牛など)
- 魚介類
- 葉物野菜
- 根菜・芋類
- 乾物・加工品
- 要冷デザート類
そして、条件の組み合わせごとにセルへ「増減係数」を書き込みます。下が、定食+居酒屋を想定した記入例です。
| 条件の組み合わせ | 肉類 | 魚介類 | 葉物野菜 | 根菜・芋 | 乾物・加工品 | 要冷デザート |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 金曜・予約多め・晴れ | ×1.2 | ×1.2 | ×1.1 | ×1.0 | 標準 | ×1.2 |
| 土曜・近隣イベントあり | ×1.3 | ×1.3 | ×1.2 | ×1.1 | 標準 | ×1.3 |
| 平日・雨・予約少なめ | ×0.8 | ×0.7 | ×0.8 | ×1.0 | 標準 | ×0.7 |
| 日曜・大雨/台風 | ×0.6 | ×0.5 | ×0.7 | ×0.9 | 標準 | ×0.5 |

この表に、その店ならではの判断が宿ります。たとえば乾物・加工品は日持ちするので、ほぼ「標準」で動かさない。一方で魚介と要冷デザートは傷みやすく振れ幅を大きく取り、大雨の日曜は思い切って×0.5まで落とす。根菜・芋は日持ちするので係数を穏やかにする——こうした「食材ごとの傷みやすさ」を係数の差として書き込むのがコツです。
最初から完璧な表を目指す必要はありません。まず直近4週間の「条件」と「実際の来客数・残った食材」を思い出し、4〜5行だけ埋める。それが自店版マトリクスの第一稿になります。
なお、仕込み量の管理はコストだけの問題ではありません。厚生労働省のHACCPに基づく衛生管理(飲食業)が示すとおり、食材の適切な量・温度の管理は食品衛生の観点からも重要です。仕込みすぎは衛生リスクにもつながると意識しておきましょう。
作った表をAIに読ませる——翌日の仕込み目安を引き出す対話のコツ
表ができたら、次はAIの出番です。ここがこの記事の肝になります。
よくある誤解は「AIに仕込み量そのものを計算させる」こと。来客予測は外部要因が多く、AI単体の数値を鵜呑みにはできません。そこでAIには「計算機」ではなく「自店マトリクスの読み手」になってもらいます。
具体的には、先ほど作った店固有のマトリクスを”引数”としてそのまま渡し、明日の条件に当てはめた目安を出させる。汎用の聞き方と根本的に違うのはこの点です。あなたの店の判断ルールを、AIに読み解いてもらう形にします。
そのまま使えるプロンプトがこちらです。
あなたは飲食店の仕込み量を補助するアシスタントです。
以下の「自店の仕込み調整マトリクス」と「明日の条件」をもとに、
食材カテゴリごとの仕込み量の目安を出してください。
最終判断は店長が行う前提で、各行に根拠を一行添えてください。
# 自店の標準仕込み量(平日・標準客数のとき)
- 鶏もも:8kg / 魚介:5kg / 葉物:4kg
- 根菜・芋:6kg / 乾物・加工品:標準 / 要冷デザート:30食
(↑自店の実数に置き換える)
# 仕込み調整マトリクス(係数)
(↑前章で作った表をそのまま貼り付ける)
# 明日の条件
- 曜日:土曜
- 天候:晴れ予報
- 予約充足率:標準
- 近隣イベント:あり(駅前で物産展)
- 直近の同条件の実績:41名以上
# 出力フォーマット
食材カテゴリ|係数|目安量|根拠(一行)
ポイントは2つあります。1つ目は「最終判断は店長が行う前提」と明記すること。AIの数値はあくまで叩き台で、決めるのは人だと枠を決めておきます。2つ目は「根拠を一行」求めること。係数の理由が言葉で返るので、表のどこを直せばいいかが見えてきます。
ここで1つ大切な注意があります。お客様の氏名・電話番号・予約者の個人情報は、絶対にAIへ入れないでください。個人情報保護委員会の生成AIサービスの利用に関する注意喚起が示すとおり、入力した情報の取り扱いには注意が必要です。AIに渡すのは「土曜・晴れ・予約多め」といった条件の属性だけにとどめます。
そして、この精度を底上げするのが実績データの粒度です。係数は「直近の同条件で何名来たか」が正確であるほど磨かれます。時間帯別の客数やメニュー別の販売数が手元の紙だけだと、振り返りに時間がかかります。
POSレジを入れておくと、これらが自動で蓄積されます。無料から始められるAirレジ(無料登録)で売上データの自動集計を始めると、マトリクスの「実績」列を埋める作業がぐっと軽くなります。仕込みの読みは、結局この蓄積された実績の細かさに支えられます。
表は使ううちにズレる——読み間違い5パターンと月1回の更新ルール
マトリクスは「作って終わり」ではありません。現場で使うと、必ずズレが出ます。よくある読み間違いは次の5つです。
- 標準量そのものがズレている——係数以前に、平日標準の8kgが実は7kgでよかった
- 条件が重なったときの掛けすぎ——「金曜×イベント×晴れ」を全部掛けて過大になる
- 天候の効き方を一律にしている——夜営業中心の店は昼の雨ほど響かない
- 食材の傷みやすさを反映していない——乾物まで係数を振って在庫が偏る
- イベントの中身を見ていない——「物産展」と「近所の運動会」では客層も時間帯も別
特に2つ目の「掛けすぎ」は要注意です。条件が重なるときは、最も効く1〜2条件に絞って係数を当てるほうが現実に合います。すべてを単純に掛け算しないことが、過大仕込みを防ぐコツです。
更新は月に1回で十分です。やることは1つだけ。その月で「目安と実際が大きくズレた日」を3つ拾い、係数を0.1刻みで直す。これを続けると、3〜4か月で自店の癖を吸収した表に育ちます。
仕込み量が安定してきたら、次は原価率の管理に進めます。同じ考え方で食材費をコントロールする手順は、原価率チェックを自動化する記事でまとめています。仕込み→原価という流れで読むと、利益管理の全体像がつかめます。
このやり方が向く店・回らない店——正直な線引き
どんな手法にも向き不向きがあります。誠実に線を引いておきます。
向いているのは、こんな店です。
- 来客が曜日・天候・近隣の動きにはっきり左右される店(定食・居酒屋・ランチ主体など)
- 食材ロスや品切れが、実際に利益を圧迫している自覚がある店
- 店長の判断を、誰かに引き継ぐ必要がある店
逆に、無理にこの表を作らなくてよい店もあります。
- 完全予約制・コース固定で、仕込み量がほぼ確定している店
- 提供品目が極端に少なく、暗算で足りる店
- 仕入れが日替わりで、そもそも標準量という概念が薄い店
また、この表が答えを保証するわけではありません。マトリクスはあくまで判断の出発点です。天候の急変、突発のキャンセル、近隣の臨時休業——表に書ききれない要素は必ず残ります。食材の安全管理や最終的な発注量の決定は、店の責任で、現場を見ている人が判断してください。専門的な衛生管理や法令対応は、保健所など有資格の窓口に確認するのが確実です。
それでも、「多め」という一言よりは、1枚の表のほうがはるかに引き継げます。完璧でなくていい。再現できることに価値があります。
まとめ:今夜、自店版マトリクスの1行目を書く
仕込み量の読み外しは、廃棄損と機会損という二重の損失を同時に生みます。その「多め・少なめ」を、5条件×6食材の早見マトリクスに置き換える。これが本記事の提案でした。
理由はシンプルです。表にすれば、感覚が誰でも読める判断ルールになり、AIにも引き継げ、人にも引き継げるからです。AIはその表の読み手として使い、最終判断は人が持つ。役割を分けるのがコツでした。
最初の一歩はとても小さくて構いません。今夜、直近4週間を思い出して、マトリクスを4行だけ書く。明日の条件をプロンプトに当てはめて、目安を出してみる。それだけで、明日の仕込みが「なんとなく」から一歩抜け出します。
仕込み量が決まったら、次は人の配置です。同じ条件データから人員(シフト)を整える方法は、シフト管理をAIで最適化する記事が参考になります。仕込みとシフトはセットで効きます。
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