そのなぜなぜ、「作業者の確認不足」で止まっていませんか——AIの是正報告書ドラフトを真因まで深掘りする品質担当の検証術【製造業2026】

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朝8時、第3ラインから報告が上がる。外径φ25.0±0.05mmのはずの部品が、20個だけφ25.12mm。前夜に材料ロットが切り替わっていた。客先への是正報告書は、明後日の昼までに出さなければならない。

机のExcelには「発生状況」「4M分析」「なぜなぜ」「是正処置」の空欄が並ぶ。なぜなぜの3段目あたりで、いつも手が止まる。「そこじゃない気がする」とつぶやきながら、また書き直す。

そこで今朝は、試しにAIに下書きを投げてみた。3分で、欄がぜんぶ埋まった完成品が返ってきた——という体験から、この記事は始めます。


試しにAIに是正報告書を書かせてみた——出てきた“それっぽい下書き”の全文

まずは、AIが出した是正報告書のドラフトを、そのまま見てください。先に結論を言うより、現物を見てもらったほうが話が早いからです。

入力したのは、発生状況の箇条書きだけ。製品名は伏せ、「製品A/第3ライン/外径寸法外れ(規格φ25.0±0.05、実測φ25.12)/20個/前夜に材料ロット切替」と匿名化して渡しました。返ってきたドラフトの中核部分が、これです。

【是正報告書ドラフト(AI出力)】

■ 発生状況
製品Aの外径加工において、規格φ25.0±0.05mmに対し実測φ25.12mmの
寸法外れが20個発生。前夜に材料ロットが切り替わっていた。

■ なぜなぜ分析
なぜ1:寸法が外れた → 作業者が初物確認を怠ったため
なぜ2:初物確認を怠った → 作業者の確認意識が不足していたため
なぜ3:確認意識が不足 → 教育が不十分だったため

■ 是正処置
作業者への再教育を実施し、確認の徹底を周知する。

■ 効果確認
今後、同様の不良が発生しないことをもって確認する。

一見、整っています。欄はすべて埋まり、文体も「です・ます」で統一され、なぜなぜも3段つながっている。締切に追われていると、「これで出してしまおうか」という気持ちが一瞬よぎります。

事実、AIはこういう書類の整形がとても得意です。決まった様式に、もっともらしい言葉を流し込む作業は、数分で終わる。「書く時間」を圧縮する道具としては、確かに優秀です。

ただ、このドラフトを客先や上司に出すと、ほぼ確実に突き返されます。次の章で、その理由を分解します。


なぜこの報告書は突き返されるのか——なぜなぜが「作業者の確認不足」で止まっている

突き返される理由は一つです。なぜなぜの行き着く先が「作業者の確認不足」「教育不足」という、個人の注意の問題で止まっているからです。

これは“それっぽい”けれど、再発防止としては機能しません。「確認を徹底する」「再教育する」は、次に別の作業者が同じ材料ロット切替に当たれば、また同じ不良が起きうるからです。人の注意力に頼った対策は、人が変われば崩れます。

ここで、製造現場の品質管理が公的にどう考えられているかを見てみます。独立行政法人 中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21は、「不良品を出さないための工程管理方法」のなかで、不良低減の基本的な考え方を整理しています。要点は、不良は作業者個人の努力ではなく、工程そのものの管理(標準化・統計的な品質管理・工程の維持改善)によって防ぐ、という方向です。

出典:独立行政法人 中小企業基盤整備機構 J-Net21「不良品を出さないための工程管理方法」
https://j-net21.smrj.go.jp/qa/productivity/Q0547.html

この公的な整理を物差しにすると、AIドラフトのなぜなぜが浅い理由がはっきりします。「作業者が確認を怠った」で止めるのは、原因を個人の側に置いたまま終わっている。本来たどり着くべきは、「なぜ、確認しなくても流れてしまう工程だったのか」という工程・仕組みの側です。

なぜAIはここで止まるのか。AIは入力された言葉の範囲で、もっともらしい因果を組み立てます。あなたが「初物確認を怠った」と一度書けば、その先も「意識不足→教育不足」と、人の内面へ素直に降りていく。現場で何が起きていたかを見ていないので、工程の側へ折り返す力が弱いのです。

つまりAIの初稿は、出発点としては悪くないが、「個人の注意」で止まったまま提出すると、再発防止が働かない。J-Net21が示す「工程で防ぐ」という基本に、人の手で引き戻す必要があります。


人が真因まで深掘りする——「なぜ確認できなかったのか」を工程へ折り返す

ここからが、人にしかできない仕事です。同じ1件の不良で、AIの浅いなぜなぜを、人がどう深掘りし直すかを見ていきます。

やることは難しくありません。AIが「個人の側」に降りていったなぜなぜを、一段ずつ「工程・仕組みの側」へ折り返すだけです。問いの形を、「なぜ守らなかったのか」から「なぜ、守らなくても流れてしまったのか」に変える。これが折り返しの合図になります。

折り返し①:「確認を怠った」の前に、確認する手順はあったか

AIは「作業者が初物確認を怠った」と書きました。ここで人が現場に確認します。「そもそも、材料ロット切替時に初物確認をする手順は、作業手順書に書かれていたか?」

現場で調べたら、手順書には「初物検査」とだけあり、材料ロット切替が加工条件に影響しうること、その際に何をどう確認するかは書かれていなかった。だとすれば、なぜ1は「怠った」ではなく、「手順が確認を求めていなかった」になります。個人の問題が、ここで工程の問題に変わりました。

折り返し②:なぜ、その手順は不足していたのか

次の問いは、「なぜ、ロット切替時の確認が手順書に明記されていなかったのか」です。

ここも事実で詰めます。過去に似た寸法外れがなかったかを台帳で確認すると、数か月前に別ラインで同種の不良が出ていた。しかし、そのときの是正がその1ラインに閉じてしまい、水平展開されていなかった。つまり、再発防止が「水平展開する仕組み」になっていなかった、というところまで降りてきます。

折り返し③:効果確認は「測れる形」になっているか

AIの効果確認は「同様の不良が発生しないこと」でした。これは測れません。「いつまで・何を見て・どうなれば是正が効いたと言えるか」が無いからです。

人が直すと、こうなります。「ロット切替時の初物検査記録を運用開始から一定期間ぶん確認し、切替時の寸法外れ発生件数を追う」。確認の対象と、見る記録が具体的に決まっている形です。

この3つの折り返しを経ると、なぜなぜはこう変わります。

観点 AI初稿(浅い) 人が折り返した後(工程へ)
なぜ1 作業者が初物確認を怠った ロット切替時の確認が手順書に求められていなかった
真因 確認意識・教育の不足 切替時の初物確認を義務づける仕組みと、過去不良の水平展開が無かった
是正処置 再教育・周知 切替時チェックリストを手順書に追記し、過去事例とあわせ全ラインへ水平展開
効果確認 不良が出ないこと 一定期間の切替時初物検査記録で寸法外れ件数を追う

AIの浅いなぜなぜ(2段で「作業者の確認不足」で止まる)と、人が工程まで折り返した深いなぜなぜ(5段で「工程・仕組みの真因」に到達)を縦に掘り下げて対比した図

左から右への変化は、AIには出せませんでした。現物を見て、台帳を当たって、工程の事実で因果を埋め直す——この往復こそ、人の手が残る部分です。AIは“問いの叩き台”を3分で出しましたが、その問いを「工程の側」へ折り返したのは人でした。

なお、ここで深掘りした流れは、AIの“もっともらしい嘘”の見抜き方・防ぎ方の考え方と地続きです。AIの出力は“それっぽい”ほど疑い、事実で裏を取る。是正報告書でも同じです。


【プロンプト】AIは“問いを広げる相棒”——真因を断定させず、候補と「確認すべき事実」を出させる

では、AIをどう使えば往復が速くなるのか。コツは一つ。AIに真因を断定させないことです。

AIを「答えを出す機械」ではなく、「問いと確認事項を広げる相棒」として使う。なぜなぜの候補をいくつも挙げさせ、そのうえで「これを確かめるには現場で何を見ればいいか」をセットで出させる。真因の確定は、現物を見た人が握ったままにします。

そのための1本が、これです。AIに突き返すときに使います。

あなたは品質管理の検討相手です。真因を断定せず、検討の材料を広げてください。

【不良の概要(機密・図番・客先名は伏せ、製品A等に匿名化して記入)】
- 製品:製品A/工程:第3ライン外径加工
- 不良:外径寸法外れ(規格φ25.0±0.05、実測φ25.12)20個
- 周辺事実:前夜に材料ロット切替

【お願いしたいこと】
1. なぜなぜの候補を、できれば「工程・手順・設備・材料・管理の仕組み」の側に
   寄せて、3つ以上の系統で出す(「作業者の注意不足」だけで止めない)。
2. それぞれの候補について「現場で何を確認すれば、その候補が真因かどうか
   判断できるか」を、確認すべき事実・記録・現物の形で挙げる。
3. すべて「〜の可能性がある」「要確認」と表現し、断定しない。

※ 真因の確定・是正処置の決定・出荷可否・客先への報告内容は、こちらで判断します。
  あなたは候補と確認事項の洗い出しだけ行ってください。

このプロンプトに、先ほどと同じ「製品A/第3ライン/外径寸法外れ/20個/材料ロット切替」を入力すると、返ってくる中身はこう変わります(※以下は入力内容から作成した出力イメージです。実際の出力は入力内容やAIの種類により変わります)。

【真因候補の洗い出し(AI出力イメージ)】

候補1:材料ロット切替時の初物確認手順が、作業手順書に明記されていない可能性がある
 → 要確認:現行の作業手順書に「ロット切替時の初物確認」の記載があるか

候補2:材料ロットごとの外径への影響を、設備側で検知・警告する仕組みがない可能性がある
 → 要確認:加工設備に材料ロット変更を検知するセンサー・アラームがあるか

候補3:過去に類似の寸法外れが発生していた場合、その是正が水平展開されていなかった可能性がある
 → 要確認:類似不良の発生履歴と、是正処置の展開範囲(該当ラインのみか全ラインか)

※真因の確定・是正処置の決定は、現場を確認したうえで人が行ってください。

先ほどの「作業者の確認不足」で止まった出力と比べると、候補が3系統(手順・設備・水平展開の仕組み)に分かれ、それぞれに「現場で何を確認すべきか」がセットで付いてきます。断定はしていません。これが、AIに真因を断定させないプロンプトの効果です。

このプロンプトの肝は、最後の一文です。「真因の確定・是正の決定・出荷可否・客先報告は人が判断する」と明示しているので、AIが勝手に「これが真因です」と断定したドラフトを返しにくくなります。出てくるのは”確かめるべき問いのリスト”。それを持って現場へ行けば、往復の初動が速くなります。

機密の扱いも忘れないでください。製品名・図番・客先名・実際の寸法をそのまま入力するのは、社内の情報管理ルールに触れる場合があります。「製品A」「顧客X」のように匿名化し、入力前に自社のセキュリティルールを確認してから使ってください。

AIは、なぜなぜを広げ、確認事項を漏らさず並べる作業が得意です。そこに絞って使えば、人は「どれが本当か」を現場で見極める作業に集中できます。


それでもAIに渡せないもの——真因の確定・是正の決定・出荷可否・客先報告

ここまでで、AIに任せていい範囲と、人が握る範囲の輪郭が見えてきました。改めて、AIに渡せないものを、往復のなかに位置づけて確認します。

往復の最後にいつも残るのは、4つの判断です。真因の確定/是正処置を採るかどうかの決定/不良ロットの出荷可否(適合判定)/客先へ何をどう報告するか。この4つは、AIの候補出しの先にある「決め」であって、下書きとは性質が違います。

AIに任せる領域(なぜなぜの候補出し・確認すべき事実の洗い出し・報告書の下書き整形)と、人が判断する領域(真因の確定・是正処置の決定・出荷可否=適合判定・客先への報告)を縦の線で分けた線引き図。PL法=責任は人

なぜ人が握るのか。理由は、製造物の品質に対する最終責任が、法律上「事業者(人)」にあるからです。製造物責任法(PL法)は、製造物の欠陥によって人の生命・身体・財産に損害が生じた場合に、製造業者等が損害賠償責任を負うことを定め、被害者の保護を図る法律です。

出典:消費者庁「製造物責任法の概要Q&A」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/pl_qa.html

つまり「この不良ロットを出荷していいか」「この是正で再発を防げるか」という判断は、その先に事業者の責任がぶら下がっている判断です。AIの出力は仮説にすぎません。仮説のまま出荷可否を決めるわけにはいかない。だから、適合判定と出荷の決めは人が握る、という線がここで引かれます。

もう一つ、見落としやすい危うさがあります。AIの“もっともらしい誤り”を、そのまま是正報告書に載せてしまうことです。生成AIには、事実に基づかない情報をもっともらしく作り出す性質(ハルシネーション)があります。これは行政白書も注意喚起しています。

出典:総務省「令和6年版 情報通信白書(生成AIが抱える課題)」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd141100.html

是正報告書に、現場で裏が取れていない“それっぽい真因”を載せると、対策は的を外し、不良は再発します。さらに踏み込めば、原因を正直に究明せず、AIで体裁だけ整えて取り繕うのは、是正報告書の役割を逆さまにする行為です。是正報告書は本来、原因を誠実に突き止め、再発を防ぐための書類。AIは“取り繕う道具”ではなく、“真因究明を速める相棒”として使う——この向きを間違えないことが、品質保証の土台になります。

そして、社内で止めきれず不良が市場に出てしまった場合、話は社内文書では済みません。重大な製品事故につながれば、事業者には報告義務やリコール等の是正措置が求められる場面もあります。だからこそ、社内の是正を確実にやり切ることが、最後の砦になります。

要するに、AIに渡せるのは「候補と下書き」まで。真因を確定し、是正を決め、出荷の可否を判定し、客先に報告する——この4つの“決め”は、責任を負う人が握り続ける。これがAI活用の前提条件です。


是正報告書の書き方はQMSの「是正処置」に学ぶ——記録の先にあるのは仕組みの是正と水平展開

最後に、ここまでの往復を、品質管理の標準的な枠組みのなかに置いておきます。思いつきの再発防止ではなく、決められた型に沿った作業だと分かると、深掘りの手応えが変わるからです。

なぜなぜ・4M・是正処置は、品質マネジメントシステム(QMS)が求める「是正処置」という枠組みの一部です。日本産業標準調査会(JISC)が示すとおり、QMSは品質に関して組織を指揮・管理するための仕組みです。国際規格ISO 9001が、JIS Q 9001として整備されています。

出典:日本産業標準調査会(JISC)「マネジメントシステム ISO9001/QMS」
https://www.jisc.go.jp/mss/qms-9000.html

QMSが求める是正処置の考え方は、ざっくり「不適合の原因を除去し、再発を防ぐ」という筋です。原因を特定し、処置を打ち、その処置が効いたかを後で確かめる。この記事で人が折り返した「個人の注意→工程の仕組み→水平展開→効果確認」という流れは、まさにこの是正処置の型をなぞっています。AIに浅いまま出させた報告書では、この型が成立しません。

こうした品質管理の現場が、いま人手不足や技能伝承の課題に直面していることは、経済産業省などのものづくり白書でも取り上げられている論点です。

出典:経済産業省「ものづくり白書」
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/index_mono.html

ベテランの暗黙知に頼った品質管理は、その人が抜けると崩れます。だからこそ、是正処置を「個人」ではなく「仕組み」に落とし、水平展開で組織の知に変えることに意味がある。そして、その仕組み化のために確保したいのが、人の時間です。

品質管理の知識を、AIと一緒に深めたい方へ

なぜなぜ分析・4M・是正処置といったQC手法は、体系的に学ぶほどAIへの“突き返し”が鋭くなります。AIに広げさせた候補のどれが筋かを、自分の物差しで判断できるようになるからです。

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品質管理手法とAI活用を組み合わせて学べる講座が揃っています。AIを“相棒”として使いこなす土台づくりに向いています。

AIで書類を整え、真因に向き合える現場で働くという選択

是正報告書のドラフトのように、AIで書類業務を速くできる品質管理担当は、これからの製造現場でますます重宝されます。一方で、「今の職場ではAI活用が進まない」「自分のスキルをもっと活かせる現場で働きたい」と感じることもあるかもしれません。

そんなときは、製造・工場の求人に特化したサービスで、どんな現場があるのかを眺めてみるのも一つの手です。応募する・しないは別として、市場にどんな求人があるかを知っておくこと自体が、キャリアの選択肢を広げてくれます。

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まとめ:書く時間を、真因を考える時間へ

AIに是正報告書を投げると、3分で“それっぽい完成品”が返ってきます。けれど、そのなぜなぜは「作業者の確認不足」で止まりがちで、そのまま出すと突き返される——ここから、この記事は始めました。

人がやるのは、浅いなぜなぜを「工程・仕組みの側」へ折り返すこと。「なぜ守らなかったのか」を「なぜ守らなくても流れてしまったのか」に変え、現物と台帳の事実で因果を埋め直す。そして、真因の確定・是正の決定・出荷可否・客先報告という4つの“決め”は、PL法上も責任を負う人が握り続けます。

AIの下書きは、この往復のためにこそ使えます。候補と確認事項を3分で広げてくれるから、人は「書く」に費やしていたエネルギーを、「現場で確かめ、工程を考える」へ移せる。是正報告書の価値は、文章のきれいさではなく、真因に届いているかで決まります。

次の不良一件で、まずAIに“真因は断定させず候補だけ”を出させてみてください。返ってきたリストを持って現場へ行く——その一歩が、書く時間を考える時間に変える始まりになります。

AI

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